アニメは人の心と財布をも動かせるのか? 片渕須直監督の劇場版アニメ『この世界の片隅に』で行われるクラウドファンディングへの挑戦

大切なことなので最初に記載しようと思います。
私は片渕須直監督の劇場版アニメ『この世界の片隅に』で行われるクラウドファンディングに賛同し、この挑戦を応援しています。
このページにはアニメ市場やファンディングのことなど色々と書いてありますが、結局のところ、伝えたいことはこれです。


ではおまけ的な本編をどうぞ・・・

アニメは日本が世界に誇る文化とされ、Cool Japanの名のもと、海外に向けて積極的にプロモーションされている産業です。
しかし、ビジネスの観点からこの産業をみると、問題が山積しているのが実情です。厳しい資金調達、劣悪な雇用実態、多重下請け構造でコントロールが難しい制作体制、長い投資回収期間、権利関係が複雑化する版権、海賊版問題・・・ その1つ1つが早急にも解決を要するものですが、ここではアニメ映画作品の作成プロセスを1つの投資プロジェクトとしてみて、その入口部分と出口部分にある問題にフォーカスし、それを解決すべく行われているクラウドファンディングという取り組みについて言及します。

まず、アニメ産業が現状どのような市場になっているのかといったことから見ていきます。
 
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アニメ産業の市場分析=出口分析
アニメ産業の定義

アニメ産業の定義

アニメ産業の市場規模とは、すなわち投資プロジェクトにおける出口部分の大きさを指します。投資して作ったアニメが売れた額の合計=市場規模ということです。これを表したのが下の図1です。

【図1】
アニメ産業の市場規模
出典:日本動画協会資料を基にK_shellが作成

赤い棒グラフはエンドユーザーが支払った金額ベースの市場規模を示しています。おおよそ1.3兆円くらいですね。
しかし、これはアニメ制作会社がほとんど絡まないグッズ販売等のいわゆるキャラクター市場の売上が含まれていて、純粋にアニメ制作会社のP/L(損益計算書)に計上されている売上をベースに算出(推計)しているのが青い棒グラフとなります。
つまり、厳密な意味でのアニメ産業の市場規模は2000億円を切るわけです。
ちなみに売上高2000億円とは、2014年決算期におけるサイバーエージェントや日本マクドナルドホールディングスの売上高とどっこいの水準です。日本を代表する産業でありながら、その市場規模は非常に小さいのです。


アニメ映画の市場

では、その中でも劇場版アニメと呼ばれるアニメ映画の市場はどうなのでしょう?
アニメ映画作品の作品数と興行収入(エンドユーザーの支払金額ベース)の推移を示したのが下の図2です。

【図2】
アニメ映画作品の作品数と興行収入
出典:日本動画協会資料を基にK_shellが作成

このグラフを素直に読むと1作当たりの興行収入は約5〜10億円となり、90分のアニメ映画でだいたい製作費3億円ですから充分ペイできる水準です。
しかし、実際はそうではありません。
アニメ映画の興行収入では、『ドラえもん』や『ポケットモンスター』等といった毎年新作が封切られる、いわゆる定番作品の収入が大部分を占めています。毎年多少の変動はありますが、ざっくりとそれらの興行収入を推計すると以下のようになります。
ポケットモンスター40億円
ドラえもん30億円
ONE PIECE30億円
名探偵コナン30億円
クレヨンしんちゃん10億円            
5作で合計140億円です。
また、アニメ映画市場で非常に特徴的なのが、ヒット作の有無で市場規模が大きく変化することです。2001年はスタジオジブリの『千と千尋の神隠し』、2004年は同じくスタジオジブリの『ハウルの動く城』、ディズニー&ピクサーの『ファインディング・ニモ』、2012年はカラーの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』といった具合です。
これらもまたざっくりと推計すると、
スタジオジブリ(宮崎駿作品)100億円
スタジオジブリ(宮崎作品以外)30〜50億円
ディズニー50〜100億円
ヱヴァンゲリヲン20〜50億円      
となります。
先程の定番作品140億円+上記のヒット作売上を各年の興行収入から差っ引くと、50億円くらいしか残りません。つまり、1本当たりの興行収入は3億円を下回るレベルでしかないわけです。
さらに、興行収入の50%は映画館を運営する興行会社の取り分となるため、実際のアニメ制作会社の取り分はより少なくなります。加えて、コアターゲット層向けに制作される深夜アニメの映画化作品がある程度固定的な収入を上げるので、一般観客層に向けられたアニメ映画は、事実、悲惨ともいえるほどの興行成績となっています。

では、ヒットしない一般観客層向け映画の内容はどうかといえば、定番作品やヒット作と比較しても、決して劣っているということはありません。単純に「面白い」「見てよかった」「泣けた」というものから、強い作家性やメッセージ性があって精緻な考察や批評に耐えられる強度をもったものまで、その種類は様々ですが、良質な作品が多いです。適切なマーケティングがなされていたら、結果は違ったんじゃないか? と暗澹たる気持ちになってしまいます。

一般観客層向けの劇場版アニメは苦戦


DVD・BDの市場

アニメ映画は映画館での公開終了後、DVD・BD(ブルーレイディスク)として販売されますが、この市場も先行きは暗いものとなっています。

【図3】
アニメDVD・BDの市場
出典:日本映像ソフト協会資料を基にK_shellが作成

この図はアニメ映画だけでなく、深夜アニメ等のテレビアニメも合わせたものですが、その市場規模は800億円で実質頭打ちです。
そして、DVD・BD市場(アニメに限らず)の特徴として、年間3万円以上支出する2.5%のヘビーユーザー層が売上全体の約60%を購入しているというものがあります(参考)。つまり、微々たるヘビーユーザー層が市場全体を支える歪な構造をしているということです。
そして、このヘビーユーザーが好むのは主に深夜アニメ系の作品群であり、一部の有名アニメ映画のDVD・BDを購入することがあっても、一般観客層向けのそれは正直人気がありません。


出口戦略

一般観客層に向けられた長編アニメ映画は、その数・質ともに確固たるジャンルとして成立してもおかしくないほどのものがありながら、実際は多くの作品が苦境に立たされています。
少し極端かつ乱暴な言い方になりますが、アニメ映画市場は「ジブリとディズニー、有名定番モノでないとダメ」な市場、アニメDVD・BD市場は「マニア受けするモノでないとダメ」な市場となっていて、それ以外の作品を差し挟む余地がほとんどありません。
もちろん、このことをもってしてヒットしている作品を卑下するといった意図は全くありません。ヒットしたということは、そこに顧客を惹きつける何らかの要素があったわけで、それは商業作品を世に出す上で決して軽視してはいけないことです。
しかし、特定作品や有名ブランドの固定ファン頼みになっている現在の市場に新しい顧客を誘引する役目を負った一般観客向けのアニメ映画が軒並み過小な興行収入に終わり、そしてそれが作品自体の過小評価に繋がっている現状は本当に残念でならないのです。

このように、一般観客層に向けられたアニメ映画では、その作品作りを1つの投資プロジェクトとしてみると、出口部分に大きなハードルがある、つまり投資の出口戦略が描けないという致命的な問題を抱えているといえるわけです。

投資の出口戦略


アニメ製作の資金調達=入口分析
2つの資金調達方法

では、プロジェクトの入口、すなわちアニメ映画の製作段階ではどうでしょうか?
ちなみに映画の現場では製作と制作が以下のように区別されていますので、このページでもこの定義に従って使い分けています。

  • 製作 ・・・ 作品の企画と資金提供行為
  • 制作 ・・・ 実際の作品を作る行為
アニメ映画は、一般論として製作資金が高額になるにも関わらず興行収入が読みづらいことから、ハイリスク・ハイリターンな事業と言われます。このことから1社単独の自己資金のみで製作されることはほぼなく、まず資金調達が行われます。このときに用いられる方法は次の2つです。
エクイティ・ファイナンス(株式、出資といった形で調達)
デット・ファイナンス(銀行からの借金)


エクイティ・ファイナンスの仕組みとメリット

エクイティ・ファイナンスを用いる方法の中で最もポピュラーなのは『製作委員会方式』でしょう。

製作委員会方式のストラクチャー

これは、アニメ制作会社、映画会社、放送局、出版社、広告代理店などの事業会社が一定の出資と引き換えに、関連する事業の窓口権を獲得するストラクチャーです。法的には民法上の任意組合として組成されることが多く、著作権は製作委員会=出資者による共同保有となります。
このストラクチャーでは、投資のリスクを分散しつつ、マーケティングは広告代理店が、映画のノベライズは出版社が、ゲーム化はゲーム会社が、といったように各事業に精通した事業会社が窓口業務を行うため、1つの映画作品から得られる収益の極大化が図られるというメリットがあります。

また、これの類型として、SPC方式(特別目的会社に対して匿名組合出資を募集)、ファンド方式(コンテンツファンドや信託を組成しておき、そこからの出資を受付)といったものも存在します。


エクイティ・ファイナンスのデメリット

まず、アニメに限らず一般論として指摘されるデメリットは①作品の均質化、②権利の分散・煩雑化 です。
『製作委員会方式』の場合、出資者に名を連ねる企業は非常に多く、それはすなわちステイクホルダー(利害関係者)の増加を意味しています。当然、各企業は自社の思惑があって出資しますので、そんな中でコンセンサスに至るのは並大抵のことではなく、結果、既に人気が確立している小説や漫画などの実写化、定番作品の続編、ゴリ押しとまで思える特定俳優 or 女優の起用といったことが起こり、逆にオリジナルの大作は製作されません。これが①作品の均質化です。
また、映画がヒットした場合、その利益は当然出資比率で配分されるため、思ったよりも儲かりません。さらにグッズ化、ノベライズ化、DVD・BD化のような2次利用は細かく窓口権が分かれているため、映画はヒットしたのにグッズ販売が全く振るわなかったといった場合に次回作を作るかどうか、次回作のグッズ販売窓口権を違う会社が担ってうまくいった場合の対応はどうするのか、といった権利の衝突が起こりやすくなります。他にも国内ヒット作を海外展開させようとして現地ディストリビューターに委ねる際、一部の権利を放棄するよう求められたりすることがありますが、任意組合では権利処分の要件が全員合意であるため、足並みが揃わないこともあります。これらは②権利の分散・煩雑化しているために起こる問題といえます。

アニメ制作会社が抱える問題とは「交渉力の弱さ」

もちろん、これらのデメリットはアニメ映画を作るアニメ制作会社にとっても共通の問題です。しかし、アニメ制作会社、もっといえばアニメを作るために実際の作業にあたるクリエイターの立場からみて、より深刻な問題なのは「③交渉力の弱さ」です。

アニメ制作は、アニメーターが1枚1枚の原画や動画を手作業で仕上げていくことの連続で成り立っていて、極めて労働集約的な産業といえます。一方、コンテンツビジネスであることから、売上は変動しやすくなっています。
つまり、不安定な売上でも制作に必要な固定人員と制作設備を確保し続けなければならず、利益水準が非常に低くなっているのです。結果、アニメ産業における制作会社は軒並み中小企業、下請けに至っては零細企業しかなく、個人レベルでいえば「月給2万円」みたいな話として顕在化します(参考)。

そして、この企業としての規模の小ささは、『製作委員会方式』の中ではそのまま「発言力の小ささ=交渉力の弱さ」に繋がります。
『製作委員会方式』では、著作権は製作委員会に帰属します。アニメ制作会社はそこから発注を受けて、アニメを実際に作るものの、それだけでは制作費しか受け取れません。シナリオを書き、絵を書き、声を吹き込んだのに、著作権はないわけです。
そのため、著作権を得ようとアニメ制作会社も製作委員会に出資することが多いのですが、中小企業ですから当然拠出できる資金は乏しく、出資比率が低くなります。「こうゆう映画にしたい」「この表現にこだわりたい」といった声はおざなりに聞き流され、ただの下請けとしか扱われなかったとき、制作現場の士気は地に落ちます。


デット・ファイナンスの仕組みとメリット

もう1つの資金調達方法であるデット・ファイナンスでは、SPC方式(特別目的会社)が採用されます。

SPC方式のストラクチャー

SPCに対してアニメ制作会社と投資家が出資し、同時に銀行から借り入れを起こして製作費を調達するといったストラクチャーです。エクイティ・ファイナンスの典型例である『製作委員会方式』との最大の違いは資金負担の重さと著作権・2次利用権の取り扱いです。

まず、資金負担の重さですが、このストラクチャーでは銀行借入がある分、『製作委員会方式』と比較して初期投資額がぐっと抑えられます。手許資金が常に不足しがちなアニメ制作会社にとって、少額でもアニメ制作が可能なストラクチャーとなっていて、これは非常に大きな意味を持ちます。

次に、著作権・2次利用権の取り扱いです。
このストラクチャーではSPCが著作権を保有します。そして、SPCに対して行われる出資は、『製作委員会方式』の窓口権(2次利用権)と引き換えの出資ではなく、匿名組合出資といわれるものです。この出資はあくまでも利益・金銭を分配することを目的に行われます。簡単に言えば、配当目当てに株式を買うようなものです。
このとき、SPCの運営は実質的にアニメ制作会社に委託する形をとるため、アニメ制作会社が作品作りと販売方法のイニシアティブを握ります。なので、製作段階でのステイクホルダーの利害調整がほとんど必要なく、SPCが保有する著作権の1次利用(劇場公開による興行収入)、2次利用(DVD・BD、グッズ等の販売、それらのライセンス供与等)から発生する利益や金銭をきちんと分配してさえいればいいわけです。
そして、匿名組合出資は3〜5年の期間が定められて、その期間が過ぎればSPCを清算しますが、この際、2次利用権を優先的に買い取れるオプションがついていて、アニメ制作会社は完全な形で2次利用権を手にすることができます。


デット・ファイナンスのデメリット

一見、『製作委員会方式』の問題点を全て解決しているよう見える『SPC方式』を用いたデット・ファイナンスですが、やはりデメリットはあります。
それは①匿名組合出資の募集規模、②借金の本質です。

実質的にはコーポレートローンと変わらないSPC方式

アニメ映画のようなコンテンツ・ビジネスはハイリスク・ハイリターンであるため、匿名組合出資に応じてくれる投資家はリスク選好度の高い人や企業に限られ、当初想定する投資ボリュームにならないことがあります。これが①です。仮に必要最低限の出資額にならない場合、アニメ制作会社が不足分を追加出資するかどうかを検討せざるを得ず、資金負担の問題が再びのしかかってくることになります。

また、このストラクチャーの肝ともいうべき銀行からの借り入れも、実はアニメ制作会社が保証する形となっていて、実態としてはアニメ制作会社本体で借金(コーポレートローン)しているのと何ら変わりません。これが②です。
つまり、投資家や銀行にお金を出してもらって、リスク分散しているように見えて、それはあくまでも外見上だけで、実際にはアニメ制作会社に多大な金銭負担を求めるものとなっているわけです。
これでは資力の低いアニメ制作会社ではそもそもこのストラクチャーを採用できず、仮に採用したとしても投資リスク丸抱えなので、1つの作品の不振がそのままダイレクトに会社の経営にヒットしてしまいます。


入口も出口も、未来も見えなくなる中で

入口の資金調達が問題

このように、一般観客層に向けられたアニメ映画では、その作品作りを1つの投資プロジェクトとしてみると、スタートアップ部分にあたる資金調達に問題が存在しているといえます。
この問題はかなり構造的に根深いものを孕んでいて、これさえできれば全部解決するといった簡単な処方箋はなく、ましてや税金を投入すれば万事OKだといったレベルの認識では、解決はあり得ません(参考)。これは突き詰めれば著作権法の問題ですが、それを改正した上で大規模な業界再編が起こる必要があったりします。まずは世間と行政に対する地道な働きかけとアピールが必要であり、一朝一夕に解決とはいかないのです。


入口にも出口にも極めて難しい問題を抱えているアニメ映画制作。
そんな中、現状をよしとせず、自分たちでできることをやって問題解決の糸口を掴もうとする、非常に勇気ある行動が起こされました。

それが片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代さん)のアニメ映画化に関するクラウドファンディングです。
参考 :片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)のアニメ映画化を応援 | 制作支援メンバーを募集するサイト
『この世界の片隅に』スタッフが挑戦するクラウドファンディング
出典:Makuake HP/こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会


クラウドファンディング
クラウドファンディングとは?

クラウドファンディングとは、銀行や機関投資家といった金融専門家ではない「クラウド=大衆」から「ファンディング=資金調達」する仕組みのことです。アイデアや目標、作りたい製品の具体的なビジョンはあるものの、必要な資金がないといった企業や個人(イノベーターやクリエイター)が自身のアイデアをインターネット上で公開し、それに共感した一般の人々から資金の提供を受けるという形をとり、資金提供者としては小口の資金からでも提供できるのでリスクや負担が小さく、一方で資金調達側はインターネットを通じて世界中の不特定多数の人たちから資金を募ることで、多額のリターンを得ることが可能という利点があります。

クラウドファンディングとは?

このクラウドファンディングは金融用語的にはエクイティ・ファイナンスに分類されることから、よく「出資」と表現されますが、これはちょっとミスリーディングで、正確には「パトロン or パトロンシステム」というのがよいでしょう(※)。
つまり、『この世界の片隅に』アニメ映画化に向けたクラウドファンディングの場合で言えば、一度出したお金は劇場版アニメがヒットしようがしまいが関係なく、返還されません。それどころかコスト計算をミスって企画が倒れ劇場版アニメが完成しなかった場合ですら返還されません。
しかし、そのリスクを引き受けた上でも、「私これを見てみたいな」「クリエイターの熱意に感動した。がんばれ!」といった気持ちを直接的な支援の形で意思表示して、作品作り(製作+制作)の一部に食い込むわけです。そして、そのように支援してくれた人たちに返還されるのは特別なオリジナルグッズやスタッフロールへの名前の刻印といった、協力してくれたことの証拠となるもの、言わばトロフィー的なものです。

クラウドファンディングにおけるリワード

通常、キャッシュリッチな企業でない限り、アニメ映画製作のようなリスクが大きいコンテンツ投資は経営としてあまりなじみません。しかし、良いアニメ映画を作ろうと頑張るアニメ制作会社の資力は乏しく、そこに属するクリエイターたちも大方が薄給の中で踏ん張っています。
だからこそ、その心意気を信じて応援の意思表示をすること=パトロンとなることは今のアニメ業界を支える一助になるはずです。


※) クラウドファンディングの中で、「出資」という言葉から想起される「株式型」や「融資型」と呼ばれるものは、前者が金商法(株式や金融商品に関する法律)、後者が貸金業法(貸金に関する法律)の規制範囲と完全にバッティングするストラクチャーで、事実上の脱法行為となっている可能性があります。このような法律は何も日本に限ったものではなく、主な先進国には必ず存在しています。


何の解決策になっているのか?

こうの史代さんが描いた名作『この世界の片隅に』
出典:こうの史代・双葉社『この世界の片隅に』

こうの史代さんが描いた漫画『この世界の片隅に』は非常に良質で、かつ深く心に響く「日常」の物語です。2009年の文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞するなど、内容に見合うだけの評価もされています。
しかし、人気少年漫画誌に掲載されている爆発的なヒット漫画ではないですし、その作風やキャラクターデザインはジブリ風でもディズニー風でもなく、ましてやコアファンに人気な深夜アニメ風でもありません。そして、アニメ映画化に際して狙うターゲット層は失敗が繰り返されてきた一般観客層です。
これを企画して言われることなど容易に想像がつきます。
「これってウケないでしょ」
「これあんまり俺の好みじゃないんだよね」
「まぁこじんまりやっていこう」
クリエイター側がどんなに熱意を持っていようが、結果が期待できないものに対して、人は冷たいものです。もちろんそれはこれまでの同ジャンル作品らの興行結果が悪い意味で証明してしまっていて、また、クリエイター側が本当に無茶を言っていることだってありえるわけです。
しかし、クリエイターとしては、自分たちが心から惚れ込み、作り上げようとする作品の行く末を大した根拠もなく否定され、最終的には企業の資力の差をもって涙を飲まされる状況なぞ、たまったものではありません。そして、ステイクホルダーに理解があり、企画の趣旨に深く賛同してくれたとしても、結局それがターゲットである多くの一般人たちに届かなければ、結果的には同じことです。

「だったら、作る前に世に問おう」

そこで、このクラウドファンディングは「だったら、作る前に世に問おう」というメッセージとなります。将来作品を見て欲しい人たちに向かって、自分たちがなぜこの作品を作りたいかを語り、その窮状と本音を語り、そして、どう思うかを聞き、できたら資金援助して欲しいと助けを求めるのです。
別の言い方をすれば「これってウケないでしょ」という疑問に対して、「じゃあ本当にウケないのか事前に聞こう!」ということです。これに大きな反響があれば、それをもってクリエイター側は自らの企画の正当性を補強でき、資力の差があるステイクホルダーたちの説得材料にすることができるわけです。さらにこの反響自体が一種の宣伝効果として機能して作品の認知度を高めてくれるのと同時に、支援を申し出てくれた人の数やその支援スピードが、将来アニメ映画が封切られるときの観客動員の見込みを把握する貴重な材料となります。

アニメ映画プロジェクトとクラウドファンディング

つまり、アニメ映画の製作におけるクラウドファンディングは、入口で問題となるアニメ制作会社の資金調達やステイクホルダーの説得、出口で問題となる認知不足の解消や観客動員の見込みといった問題に対して、それぞれ効果的に機能するわけです。


クラウドファンディングの本質

ただでさえ資力が乏しいアニメ制作会社にとって、その部分を補強できるクラウドファンディングは非常に有用です。どんな綺麗事やお題目を並べようが、やはりお金の威力は絶大です。この手法を利用する最大の目的がお金を集めることなのは間違いありません。

しかし、クラウドファンディングの本質はお金集めだけにあるわけではありません。クラウドファンディングは上述した通り、「自らの主張を世に問う」というところにその本質があります。世間に訴えなければいけないということは、逆に言えば現時点で周囲から満足する支援が得られず、資金を含めたあらゆるリソースが不足している証拠です。
つまり、この訴えをみて、「私お金は持ってないんですけど絵は描けます。何かお手伝いできることはありませんか?」 「体力に自信があるので、もし手が足りないようならカット袋もって走ります!」 「企業スポンサーになりたいんですがどうすればいいですか?」といった形の支援も、クラウドファンディングの一環として成立するわけです。
そして、世に訴えた以上、その訴えを1人でも多くの人に知ってもらうこともまた、クラウドファンディングの一環となります。これはお金を出さなくてもできます。Twitterで「ツイート」したり、facebookで「いいね」を押したりすればいいのです。これだけでもクラウドファンディングの立派な参加者であり、パトロンたりうるのです。また、この動きが拡大して、いわゆる「ネットで話題」という枕詞がつくような規模の共感を得られれば、それ自体が非常に効果的なプロモーションとなります。

アニメと心とお金

過酷な環境に身をおくアニメクリエイターたちが、絵を動かすアニメを通じて、多くの人の心とお金を動かそうとしています。
私たちはクラウドファンディングを通じて、その勇気ある挑戦を支援できます。何気ない、そして些細かもしれない1つ1つの行動が作品の認知を高め、クリエイターの行動を後押しします。それは長期間の制作現場を支え続けるモチベーションの源泉となり、最後には作品の質に反映されていくのです。


「そのはじまり」

As with the Tiv, on Kickstarter, the reward gift doesn't bring the transaction to completion. After financing a project and dispensing rewards, artists who use Kickstarter are in a permanent debt to the fans who supported them.

Rob Trump 『Why Would You Ever Give Money Through Kickstarter?』 New York Timesより引用


クラウドファンディングは、資金を調達した見返りに何らかのリワードを送ったら、「はい終わりっ」と関係が切れるわけではなく、資金調達者が支援してくれた人たちに対して「永遠の負債」を負うものだと言われています。

『この世界の片隅に』アニメ映画化のクラウドファンディングでもこれは当てはまります。途中頓挫は余程の事情がない限り認められず、完成作品は多くの人が「自分も参加した作品」として見ますから、批評のハードルは非常に高いものになるでしょう。そして作品が公開された後も、クリエイターの行動や発言は注目され続けます。これはときにクリエイターにとって煩わしいものとなるかもしれません。

でも、それはすなわち真摯に作品に向き合ってくれる限り、パトロンとなったファンは決してクリエイターたちを見放さず、ともに歩み続けるということです。
順調にファンディングが進む今、『この世界の片隅に』はきっとアニメの新しい可能性に向かってスタートを切ることになるでしょう。そこからは引き返すことが許されない、長く、過酷で、孤独な作業が続きます。そんな中でもどうか忘れないでほしい。私たちはクリエイターの皆さんと同じものを夢見て、同じように完成を楽しみにし、生みの苦しみの中でもがくあなたのすぐ横を一緒に歩いていることを。

がんばってほしい。私は見てみたい。みんなが支えるアニメを見てみたい。

片渕監督、プロデューサーの丸山正雄さん、真木太郎さん、MAPPA・GENCO所属のスタッフの皆さん、原作者のこうのさん、そしてこの映画を作成すべく動いている全ての関係者の方々、心から応援しています!

今日は『この世界の片隅に』を観にいこう



ファンディングの進捗 2015/6/1時点
2015/3/9クラウドファンディング スタート
 目標設定金額 2,000万円
 全6コース(2,000円〜)
 締切 2015/5/29
   3/10支援金1,000万円に到達。
 国内での映画ジャンルのファンディングとしては史上最速
   3/18支援金が目標の2,000万円に到達
   4/8支援金2,467万円
 サポーター2,118人
   5/29支援金3,622万円
 サポーター3,374人
 国内での映画ジャンルのファンディングとしては史上最高調達額
もし、このページをみて少しでも興味が湧いた方がいらっしゃたら、クラウドファンディングのサイトも覗いてみてください。
参考 :片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)のアニメ映画化を応援 | 制作支援メンバーを募集するサイト


おまけ

米国のKickstarterにてクラウドファンディングを実施し資金調達を行った吉成曜監督の『リトルウィッチアカデミア 魔法のパレード』(製作はTRIGGER)は2015年、今年公開予定です。

吉成曜監督の『リトルウィッチアカデミア 魔法のパレード』(製作はTRIGGER)
出典:TRIGGER『Little Witch Academia』HP


キーワード「片渕須直」の注目ランキング by amazon (2015/4/9)



K_shell 年代:30代 職業:金融 この世界の片隅に 片渕須直 こうの史代 クラウドファンディング アニメ お金の話 olds47.jpg
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コメント : 4

. - 2015/04/10 11:26

このコメントは管理人のみ閲覧できます

. K_shell 2015/04/15 11:08

4/14にこのエントリーに関するリツイートが100件超しました!多くの方に読んで頂いて大変感謝しております。ありがとうございます。
片渕監督をはじめとする『この世界の片隅に』制作スタッフの方々を応援する輪が少しでも広がること。それが私の願いです。

クラウドファンディングも継続中で、2,000円から受付されています。このエントリーでちょっとでも興味がわいた方はぜひそのページも覗いてみてくださいね。

. spica 2015/05/28 01:46

私もできる範囲で支援に参加しました。
現時点で調達金額は3200万円、支援者数は3千人を超えています。
(実際は手数料として2割が消えるようですが。)

ただ、最近の片渕監督のインタビューで
「本作が一般層に興味を持ってもらえることの証明としては
映画鑑賞費用と大差ない二千円枠の支援者が多くなることが必要。
一万円以上の枠で支援してくれる人たちが多いのは
嬉しい反面、結局少数のコア層が支持する映画と受け取られかねない」という趣旨のことを仰っていました。

私もこのようなクラウドファンディングが、
ジリ貧の感があるアニメの現状を打破する材料になってほしいと強く願います。
ですが、今回の結果は片渕監督の思惑からすると失敗したということになるんでしょうか。

. K_shell 2015/05/29 12:24

>>spicaさん
コメントありがとうございます。支援が拡大していて嬉しくなりますね!

spicaさんと片渕さんがご懸念になっている点は「そう言われることがあり得る」といった、いわゆる「モノは言い様」リスクですね(しかし、現場レベルではこのような難癖をはね返すことが非常に大変だったりしますが・・・)。2,000円の価格帯における支援者が少ないからといって、それが即ち一般層への波及効果として失敗したとは必ずしもいえないと思います。それは価格帯別の商品特性が大きく異なるからです。
2,000円の支援の場合、リワードはグッズです。このグッズは非売品であって非常に魅力的ではあるものの、シビアにとれば、映画公開時に映画館で販売されるグッズと似通っているともいえます。これは応募した側からすると、分かりやすい形で支援を人にアピールすることが難しいということであり、そういった意味では一般的な寄付色の強い商品特性をもちます。
一方、10,000円の場合、エンドロールへのクレジットとなります。当たり前ですが、映画館に作品を観に行っても、そこでクレジット権みたいなものが販売されていることなぞありえません。類似商品などもなく、寄付というよりも製作参加に近い特別な商品といえるわけです。
この違いは一般層やアニメ好き層関係なく、どちらにも同じように振りかかる悩ましい問題です(笑)。せっかくお金を出して支援するなら、少額ではないけれど永久的にその事実が残るようにクレジット権付きコースに応募しようとするのは、ごく自然な感情として十分理解できます。
むしろクラウドファンディングという手法自体がまだまだ一般的ではない中で、3,000名を超す方々が支援を名乗りでたこと自体が快挙です(支援者の多くがダブル応募していて、ネットでカウントすると1,500名になっちゃうといったことではちょっと問題かもしれませんが、おそらくそういったことはないでしょう)。この良い流れを切らさず、制作陣と支援者がファンディング後も密にコミュニケーションをとって情報を拡散したり、この快挙をマスメディアなどにちゃんと取り上げてもらったりして、マーケティングにどんどん利用していくことが肝心なのだと思っています。

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