BLACK LAGOON Roberta's Blood Trail : 希望を掴めなかった者が希望を見出すまで。

『BLACK LAGOON(ブラック・ラグーン)』は、広江礼威さんによる人気漫画で、2006年に片渕須直さんの手によってテレビアニメ化されました。

このアニメには、ヴィエンチャンやハノイのような旧フランス植民地風のとある街を舞台に起こるド派手なアクションと、下品(笑)で洗練されたセリフがぎゅっとつめ込まれています。

例えばこんな名言が。。。

旭日重工5万名の社員のためだ。南シナ海に散ってくれ。

第1話 The Black Lagoonより引用

主人公ロックの命運を決定した言葉。
旭日重工5万名の社員のためだ。南シナ海に散ってくれ。


マヌケ共め・・・ のどかに祝杯をあげてるがいい。そこへタムタムの音色を響かせながらナヴァホように襲撃するのさ。

第6話 Moonlit Hunting Groundsより引用

ロックが所属するラグーン商会のリーダー ダッチ。
マヌケ共め・・・ のどかに祝杯をあげてるがいい。そこへタムタムの音色を響かせながらナヴァホように襲撃するのさ。


跪け!

第15話 Swan Song at Dawnより引用

短いながら、底知れない憎悪を感じる言葉。ロシアンマフィアのボス バラライカが言い放ったこの作品を代表する名セリフ。
跪け!


ここは教会でしょ!

だから? 神は留守だよ、休暇取ってベガスに行ってる。

第16話 Greenback Janeより引用

マフィアに追われて教会に逃げこんできた女を一蹴するシスター エダ
神は留守だよ、休暇取ってベガスに行ってる。
 
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銃とカネ
銃とカネ

『BLACK LAGOON』の舞台では、全ての物事が銃とカネで解決されます。そこには日本人が社会を営む上で基本とする「人を殺してはいけない」「人の命は何よりも重い」といった決まり事は存在しません。この決まり事は平穏な社会生活を過ごす上で欠かせないものですが、それはあくまでもみんなが自己防衛のために打ち立てた「決まり事」であって、一種のフィクションです。
社会を構成する大多数の人たちがこのフィクションを守る世界は、一定レベルの安定と平和が保たれます。しかしながら、フィクションを信じるだけで自身の安全が保障されることは非常に幸福で運がいい状況であり、世界には「そうではない世界」がたしかに存在しています。

なので、『BLACK LAGOON』では、フィクションなんかに頼らないむき出しの人間性が描かれます。そこは建前もクソもない世界です。例えば、「仲間を信じる」みたいな甘い考えはありません。仲間であろうと自身に関する情報は秘匿されます。自分の情報の流出は、身の危険に繋がることが明白だからです。鉄壁の個人主義を貫くことで、自身の安全を確保しているのです。
自分のことは自分で何とかする、そしてなんとしても生き延びることを重視する。「生きたい」ということに純粋な生き方は活力に溢れ、非常にスタイリッシュです。

『BLACK LAGOON』のキャラクターはスタイリッシュ



自分が何によって知られたいか?
『BLACK LAGOON』のキャラクターは幼稚

しかし、『BLACK LAGOON』の登場人物たちはほとんど一様に幼稚です。ビジネスの世界で「経営の神様」と称されるピッタ―・ドラッガーが「自分が何によって他人に知られたいか」を自問することで、目標や生きがいが自分の腹に落ち、それが人としての成長をもたらすとしましたが、主人公のロックをはじめとする登場人物たちはそれらを持ち合わせていません。目標も生きがいもなく、非常に刹那的なスタイルで日々を過ごします。
これは考えてみると当たり前のことで、明日銃で撃ち殺されるかもしれない人間に対して、10年後の自分を見据えて計画をたてろ、と言っても無茶でしょう。今日を楽しく生きることが全てであって、そこには人としての成長余地なぞありません。
このことから、『BLACK LAGOON』は短期的かつ短絡的思考の罠にハマって「成長を止めた子供のような大人」たちの話であるといえます。そこで起こる事件はことごとく、原因が放置され、結果の収拾だけが行われます。それが意味するところは、すなわち事件当事者の死亡です。

いいんだ、このままで。空を仰いで――海を眺めて・・・ 眠るんだよ。

だから、私も含めた多くの人たちがスタイリッシュでカッコいい生き方に惹かれるのと同時に、こんな不条理で未来がない、悪党やチンピラが跳梁跋扈する世界はごめんだと感じるわけです。
また、元ネタが現実にあった事象や犯罪をなぞっていることもあって、視聴者が体感するやり切れなさは非常に強いものがあります。

跳梁跋扈する悪党共 バラライカ

跳梁跋扈する悪党共 張維新(チャン・ウァイサン)

跳梁跋扈する悪党共 レヴィ

跳梁跋扈する悪党共 ロック(岡島緑郎)


異質な世界の中の異質な存在
「人命尊重」というフィクションを信じて、その見返りに安定と平和を享受している多くの日本人にとって、『BLACK LAGOON』の世界は非常に異質な世界として映ります。その世界に適応し、大活躍するキャラクターたちもまた然りです。
そんな異質な世界の中で、異質な存在として描かれるのが、アニメ第3期として製作された『BLACK LAGOON Roberta's Blood Trail』にて主役となる『ロベルタ』(本名ロザリタ・チスネロス)です。

『ロベルタ』(本名ロザリタ・チスネロス)

私たちが生きる「こちらの世界」と真逆の異質な舞台の中で異質として取り扱われるということは、それは私たちの感覚に近いということを意味します。つまり、キャラクターや世界観への素直な感情移入が非常に難しい本作シリーズの中で、ロベルタは非常に感情移入しやすいのです。それはロベルタの行動原理が「自らの主君にありったけの忠義を尽くす」というものだからです。

「若様」ことガルシア・フェルナンド・ラブレス

ロベルタは革命を志した元ゲリラ。しかし、「平和な明日」という崇高な思想を実現するためにその手を汚し続けたロベルタが見たものは、自分の所属した組織が麻薬畑の番犬に過ぎなかったという真実であり、夢敗れたロベルタが逃げ込んだのが本編で雇われているラブレス家です。
ワケありの自分を匿ってくれた現当主のディエゴ、その子で「若様」ことガルシアに心から感謝し、今度こそ、この2人の「平和な明日」が続くようにと行動します。その行動の底に流れているのはとても深い忠義です(アニメ第1期のテレビシリーズで放映されたときは、ターミネーターをオマージュした演出、圧倒的な戦闘力もあって、一気に人気キャラとなりました)。

アニメ第1期のロベルタ


『BLACK LAGOON Roberta's Blood Trail』
ロベルタの希望=「若様」の希望≠ガルシアの希望

BLACK LAGOON Roberta's Blood Trail

悲劇は当主ディエゴが爆破テロで殺害されたことから起こります。嘆き悲しむガルシアを見て、ロベルタはある間違った事実認識に基づいて行動し始めます。ロベルタの行動原則はあくまでも「若様」の幸せを守ること、それを邪魔する者共を排撃することです。だから、復讐を遂げることこそが自身のなすべきことだと思い至ります。自分がどうなろうと「若様」を苦しめた犯人を追い詰め、殺し尽くすことがガルシアの希望の護り手たる自身の役目であり、自身の希望でもあるわけです。
でも、それはあくまでもロベルタから見たガルシア、つまり「若様」の希望のためであり、ガルシア本人の思いはそこに込められていません。

だから、ロベルタは気づかなかった。
ガルシアは父の死を悲しんだけれど、復讐を望んだわけではなかったことを。
ロベルタがさらなる罪を重ねることを決して望まなかったことを。
そして、ロベルタと生涯一緒に暮らすことを望んでいたことを。

憎悪の感情から精神の均衡を崩したロベルタ

しかし、憎悪の感情から精神の均衡を崩したロベルタは止まりません。間違った希望を信じて復讐を続け、その行動が当初の間違った希望をあたかも正しく真実だったように現実の状況を変えていきます。

そして、対峙するロベルタとガルシア。

その結末はぜひご自身の目で確かめて下さい。

BLACK LAGOON Roberta's Blood Trail(監督 片渕須直)



以降の記述には『BLACK LAGOON Roberta's Blood Trail』の結末に関する詳細が含まれます。ネタバレなどを気にされる方はご注意ください。

失ったもの、得たもの

アニメでは原作と少し展開が異なり、そのエンディングに監督である片渕須直さんの独自の解釈が加えられています。
(2015/4/16追記)漫画原作の単行本化の際、尺と演出の都合で惜しくもカットされてしまった広江さんによるオリジナルプロット(字コンテ)を、監督の片渕須直さんが鮮やかに映像化しています(広江さん、片渕さんご本人から指摘コメントを頂きました)。

その結末は衝撃的なものであり、ロベルタは復讐する過程で四肢を欠損し、1人では生きていけない身体になり果てます。ロベルタが主君である「若様」の役に立つという誓いはもう生涯叶うことはなく、あまつさえ、その主君の世話にならないと日常生活すら送れなくなったわけです。過去の自分を戒め、「若様のために」と掛けていたメガネも、「若様のために」何もできなくなった以上、掛けることをやめます。

受け入れることが難しいだろう、非情な現実。

ロベルタはこれまでの人生で大事にしてきたものの多くを失いました。
恩人であったディエゴは亡き人となり、誇りであった力はなくなり、彼女が自身の希望として定義した「若様」の希望は結局掴めませんでした。

戦うことによって、失い続けた人生。それは一見不幸なことのようです。

ロベルタが失ったもの、得たもの

しかし、ロベルタは最も大事にしてきた主君、ガルシアの思いに触れることで、精神の安寧をようやく手にしたのだと思います。それはエンディングテーマに込められています。

In the mist of the night I survived
Where the moon and stars could not be found
Now I see the brightest light on my way

In this moment I exist
In this moment I live
All because of the grace you bestowed on me

『This moment 〜prayer in the light〜』より引用

作詞・作曲・歌唱 : Minako "mooki" Obata


彼女の人生はずっと戦いでした。そこは月も星も見つからない漆黒の夜。
彼女が渇望した力は消え去り、その身体はもはや冷たく、弱いものに成り果てました。
しかし、その暗闇の中、彼女はまばゆい光を見て、気づいたのです。

私はここにいていいんだ
私は生きていていいんだ
これは全部、あなたが私に授けてくれた宝物

意訳:K_shell

自分が希望に包まれていることを。

ガルシアとロベルタ

※ ここまでの使用した画像の出典:『BLACK LAGOON』/『BLACK LAGOON The Second Barrage』/『BLACK LAGOON Roberta's Blood Trail』/マッドハウス

知ってほしいこと
TVアニメ『BLACK LAGOON』、そしてOVA『BLACK LAGOON Roberta's Blood Trail』にて胸を打つ結末を私たちに見せてくれた片渕監督の最新作、劇場版アニメ『この世界の片隅に』は現在制作中となっています。
そして、この作品では現在のアニメ業界が抱える問題点を解決すべくクラウドファンディングという挑戦が行われています。
参考 :片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)のアニメ映画化を応援 | 制作支援メンバーを募集するサイト

私はこの挑戦に感銘を受け、応援しています。そして、片渕監督が起こした行動の意味とは何なのか、アニメ業界が抱える問題とは何なのか、クラウドファンディングという聞き慣れない言葉の意味などを拙いながら解説しましたので、『BLACK LAGOON』好きな方はよろしければこちらもご覧ください。
※ 既に多くの「ツイート」、「いいね」をして頂き、ありがとうございます。少しでも多くの方にこのアニメ映画の挑戦を知ってほしいと願っています。
関連記事 :アニメは人の心と財布をも動かせるのか? 片渕須直監督の劇場版アニメ『この世界の片隅に』で行われるクラウドファンディングへの挑戦

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コメント : 1

. K_shell 2015/04/16 15:18

なんと原作者の広江さん、アニメ版監督の片渕監督よりTwitterにてコメントを頂きました。ありがたいことです(コメントに基づき4/16に一部修正の上、追記)。

また、このエントリーをご覧頂いた方、本当にありがとうございます。このアニメのファンの方にも、本文中の【知ってほしいこと】に書いた片渕監督の最新作、劇場版アニメ『この世界の片隅に』と今まさに進行中の挑戦=クラウドファンディングに少しでも興味を傾けてもらえると嬉しいです。

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