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これらのCMを覚えている方も多いと思います。これらは2006年まで頻繁に放送されていた消費者金融のCMの一部です(チワワがアイフル、タイツダンサーが武富士)。ちなみにチワワはこのCMで人気に火がつき、値段が高騰しました。

ソフトで楽しい雰囲気のCMを流すことで、すっかりお茶の間に受け入れられていたと思われた消費者金融。その裏側では借り手の自己破産・一家離散・自殺などといった悲劇が急激に積み上がっていました。

しかし、このような消費者金融で起こる問題を議論する時、必ずといってよいほど「そんなの借りたヤツがアホなだけだろ!」といわれます。ですが、「借りるヤツ」がいるということは「貸すヤツ」がいる訳で・・・「貸すヤツ」側、つまり資金の供給側の問題点は何だったのでしょうか?

※ 借り手側で起こる悲劇については、宮部みゆきさんの『火車』が名著であり、ぜひご一読頂けばと思います。
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消費者金融市場の需要と供給
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トマトは農家が供給して、それを食べたい消費者が需要します。
握手券はアイドルが供給して、アイドルと握手したい人たちが需要します。
これらのモノやサービスと同じように、消費者金融の世界にも需要と供給が存在します。
供給
貸し手
ノンバンク、サラ金、街金、ヤミ金・・・といった貸金業者

需要
借り手
銀行では対応が難しいようなリスクの高い消費者

「銀行では対応が難しい」や「リスクの高い」という意味は、例えば、差し出す担保がなかったり、ちょっとまとまったお金が急に必要になって、事前審査に時間があまり取れなかったりするような場合です。

「そんなの借りたヤツがアホなだけだろ!」的な意見はこの需要側の落ち度を批判するものです。これは非常に真っ当な意見で、特に消費者金融を利用したことがない方の多くは賛同できると思います。そして、当たり前ですが、消費者金融を利用している方の中には、期日通りに返済をこなして、健全に利用している方もちゃんといるわけです。
実際、消費者金融で最大の問題とされている多重債務者(複数の業者から身の丈以上の借金をしている人)には、無計画で、法律的な知識がない方が多いといわれています。

しかし、そのような多重債務者が存在するということは、そこに資金を供給している業者もまた存在しているということです。そんな消費者金融の供給側における負の特徴といわれるのが、
① 高金利
② 過剰貸し付け
③ 苛酷な取り立て
という「3K」です。

高金利
金融庁が発表している貸金業関係統計資料をみると、平成17年3月末での大手業者の平均貸付金利は24.21%です。

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出典:NHK『ハゲタカ』

ドラマ『ハゲタカ』で取り上げられ、ホリエモン事件や村上ファンド事件の前後あたりにも「日本が外資に買い叩かれる!」「金の亡者のハゲタカファンド」と騒ぎになった投資ファンドですが、それらが目標とする収益率(ハードルレート)は大体年率15〜30%です。

24.21%がどれほど高い水準か、お分かりになるかと思います。

過剰貸し付け
消費者金融を利用する場合、1回いくらか借りて、その金額+利息を返済したら終わり、というものを想像するかもしれませんが、実際は違います。事前に30万円や50万円といったような借入枠が設定され、最低支払額さえ毎月支払えれば、後は好きなだけ借りられる『リボルビング』方式となっていて、これが取引の90%近くにのぼると言われています。
このリボルビング方式は、各業者がこぞって
「月々の返済が安定して、家計が助かる」
「お財布感覚のご利用」
「枠の上限がストッパーとなって過度の借り入れを抑えます」
などとメリットだけを宣伝・説明してきました。

しかし、実際は、借入枠自体が100〜300万円までは容易に拡大でき、一方で月々の返済額が低く抑えられているため、なかなか借金返済が進まないといったことや、使用を続けることで借入枠を自分の貯金のように錯覚するようになってしまうといった弊害があります。
金融庁の調査では、ある時期に初めて消費者金融をした利用者のうち、7年後に完済しているのは約40%の人だけ。残りの人は、初回の平均貸付額18万円だったものが、7年後には66万円に膨らんでいる、というショックな結果が報告されていました。
しかも、本当ならばこれに他の業者からの借金もあると考えられるので、状況はより深刻でした。

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出典:金融庁


ちなみに、過剰貸し付け問題に対するよくある反論として、

消費者金融への規制を強化すれば貸し渋りが増えて「借りたくても借りられない、借り入れ難民」が大量に発生するので、「個人事業主や個人の緊急一時的な資金繰りに対処できるよう、少額融資又は短期融資に限って」規制をゆるめよ!
参考:霞が関政策総研Blog by 石川和男

みたいなものがあります。

このような方々が声高に主張する「短期で少額の緊急借金」ってなんでしょうか?
「短期で少額の緊急借金」でも借りられない人がいる、ということは、今借りている人は「より短期でより少額の借金」だけということになります。例えば、2013年度のサラリーマン平均年収414万(月収34.5万円)の家計において、毎月給料が2週間も遅配してしまうような倒産待ったなしの会社に勤務していて、その間を食いつなぐ資金のため消費者金融を利用しているような、ちょっと極端な人を考えた場合でも、年間平均残高は約16万円にしかならないわけです(34.5万円×14日×12回÷365日)。
2005年3月末時点で消費者金融に借金していたのは約1400万人とされているので、全員がこの極端な例と全く同じ行動をとっても、市場規模は約2兆円にしかなりません(約16万円×1400万人)。
ですが、金融庁の発表資料によれば、実際の消費者向け無担保貸し付けの1件あたりの平均残高は約50万円、総額は約10兆円(担保の有無にこだわらなければ約20兆円)だとされています。

つまり、『短期で少額の緊急借金』というお題目を忠実に守っているならば、そもそもこんな巨大な市場規模にならず、また世界長者番付で日本の消費者金融トップ3人が入ってしまうような高収益を上げられないことは一目瞭然。小学生レベルの算数ができれば、すぐに分かるわけです。

苛烈な取り立て
苛烈な取り立てというと、すぐにヤミ金を思い浮かべる方が多いと思います。私も貸金業務取扱主任者の第1回目の試験を受けたとき、会社の業務命令でしぶしぶ受験しているのであろう多くの若手金融マンに混じって、片手にセカンドバックを持ちパーマもばっちりの日焼けしたオジサマを何人か見つけて、業界のヤミを再認識しました(笑)。
そんなコワい方々が昼夜問わずやってきて玄関の扉を叩いたり、何度も電話がかかってきたり・・・この問題は前述の通り、宮部みゆきさんの『火車』がとても分かりやすいのでオススメです。
関連記事 :火車 宮部みゆき(著): 犯人が出てこないミステリー

ここではちょっと他の切り口から考えてみます。

「何でもお金の力で解決しようとする」「拝金主義だ!」とマスコミや世論からバッシングを受けていた村上ファンドを率いた村上世彰さんは

金儲けは悪いことですか。それ何が悪いんだろう。

という問いを投げかけました。その答えの1つとして

愛や友情はお金で買えない。

みたいなのがありましたが、本当にそれらが買えないのかどうかはともかく、現金化する方法はあります。
そもそも人は家族や恋人、友人などと何らか繋がりをもっていて、それらが良好な関係となっているならば、その時点で資産をもっているといえます。例えば「実家にいるとお金がかからない」とよく言われますが、これは一人暮らしが可能な年齢に達しても、実家にいれば家賃や日々の生活費を家族とシェアすることで、本来1人で支払うべきコストを低くできるという意味です。つまり、この得したコスト分の資産をもっているといえるわけです。このように、物的な資産がない人でも、この目に見えない資産をもっていることになります。

苛烈な取り立てはこの目に見えない資産を強制的に現金化するものです。
取り立ての際によく使われる
「自分で返せないなら親から借りて返せ!」
「娘を売り飛ばすぞ!」
「おまえ◯◯と仲いいらしいな。わかってんな」
といった脅し文句からもわかる通り、当人の周りを囲む家族や恋人、友人などからお金を借りさせて返済させます。つまり、愛や友情を現金化させて返済させるわけです。
しかし、現金化したとしても、それは日常生活で得ていた本来の資産価値からみるとずっと低い現金となり、しかも一旦現金化してしまったこれらの資産は、家族の縁を切られる、友達付き合いがなくなるなどといった形で手許から失われる可能性が高いです。
このように社会との繋がりがどんどん切れていってしまうと、借金地獄から抜け出す解決策を教えてくれるような機会や自己破産後の希望すら失われてしまい、自殺や犯罪といった惨劇が繰り返されるようになるわけです。

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また、苛烈な取り立て問題に対するよくある反論として、

そんな野蛮な取り立てをしてるのは一部の業者だけだろ!

みたいなものがあります。これは本当だったのでしょうか?

消費者金融は業界大手10社が90%を占める寡占市場です。
ヤミ金の取り立てが厳しいのは当たり前ですが、ではこの90%を占める大手ではどうなのでしょうか?。
ここは実例をみるのが最もわかりやすいです。以下に記載するのは2005年4月に出された当時業界最大手のアイフルへの行政処分の内容です。

  • 認知症の疑いが強いとして家庭裁判所が補助人をつけた老人に対し、補助人からの通知にもかかわらず取り立てをやめない。
    @函館
  • 借り手名義の委任状を勝手に作り、それを使って戸籍謄本を取る。
    @長崎
  • 借り手の勤務先に対して正当な理由なく執拗に取り立ての電話をかける。
    @九州センター
  • 借り手の実家に執拗に連絡して、母親に肩代わりさせるように迫る。
    @西日本センター
  • 借り手に対して第三者からお金を借りて返済するように求め、加えて妻や母親を交渉に参加させるよう執拗に迫る。
    @愛媛
地域的にも内容的にも広範囲で、めちゃくちゃ悪質ですよね。この後、これまた大手の武富士や三洋信販なども行政処分もくらっていますし、他の消費者金融のトラブルも数多く裁判になっています。これらはいずれも
業界大手で、
東証一部上場企業で、
「厳格なコンプライアンス(法令遵守)」を誇る企業で、
起きていたことです。あとは『推して知るべし』でしょう。

最初借りるのはCMで見たことのある大手で、そこで返せなくなり、他社で借りたものを返済にまわし、どんどん小さい街金などに手を出し始め、ヤミ金にまで手を出し、そして、どこかの時点で自殺したり逮捕されたり破産したりして返済できなくなったりします。
つまり、業界全体で壮大な“ババ抜き”をしているわけです。だからこそ、大手もヤミ金も野蛮の度合いに差こそあれ、結局はどれも野蛮で悪質でした。

法改正までの流れ
2006年1月
 最高裁判決(中川了滋裁判長、滝井繁男裁判官他)
 → グレーゾーン金利の有効性を否決
 金融庁+貸金業懇談会主導で法改正準備を開始
 → 目標は「グレーゾーン金利撤廃+総量規制」の導入

同 3月
 業界の反撃
 → 主な主張は「グレーゾーン金利撤廃+自主規制」

同 4月
 アイフルへの行政処分
 与党・自民党内や国会での議論本格化

同 6月〜
 外資系企業による横やり
 アメリカのマスコミ・政財界総出の規制強化反対運動
 政治と金融庁の対立

同 11〜12月
 衆参両院で与野党含む全会一致で法改正が可決

2007年12月
 新貸金業法の運用スタート

最近、非嫡出子の取り扱いや投票における1票の格差問題などで裁判所の判断が注目される機会が増えています。それは政治や行政のいわゆる“サボり”によって放置されている社会問題を、裁判所が先んじてチェックし対応している状況といえます。消費者金融の問題はまさにその先駆け的なものです。

旧法である貸金業規制法は、日米の経済界やアメリカ政府、欧米のマスコミの壮絶ともいえる反対にあいながらも、最終的には与野党全員による賛成で改正され、貸金業法という新法に生まれ変わりました。


グレーゾーン金利

(ここはちょっとテクニカルな論点なので、興味ない場合は読み飛ばして頂いてOKです)
法改正のきっかけとなった最高裁の判決はグレーゾーン金利の有効性を否決したものです。この当時、金利の上限を決める法律はなぜか2つあり(図1を参照)、この間の金利をグレーゾーン金利と言いました。
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図1

では、それぞれのゾーンの金利を設定した場合、法的にはどのように解釈されていたかというと、図2のような形でした。
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図2

グレーゾーン金利は借り手による“任意”の支払いが必要とされていました。2006年1月の最高裁では、貸金業者と借り手の間で締結されているほぼ全ての契約が借り手の利息支払いを実質的に強制している=借り手が自発的かつ任意にグレーゾーン金利に関する利息を支払っているとはいえないという判決を下しました。
これにより、借り手が支払い過ぎていた利息=業者が貰い過ぎていた利息という存在が法的に認められ、現在までも続く、過払い金訴訟と消費者金融への規制強化へのファイヤースターターとなったわけです。

ちなみに、この判決の後、消費者金融への規制を進めた金融庁とそれに反発する業界・経済界がどちらも字面上は同じ主張「グレーゾーン金利撤廃」を主張していました。
しかし、内容は違います。金融庁は出資法で定められている上限金利29.2%を引き下げることでグレーゾーン金利をなくそうとしたのに対し、業界側は利息制限法で定められている15〜20%を29.2%まで引き上げることによってグレーゾーン金利をなくそうとしました。資金繰りに行き詰まった借り手に対し、さらに高い金利で多額の借金を重ねさせるのがいいのか、それとも借りる方法を取り去ってそこで止めるのがいいのか。あるべき金利水準は常に議論を続ける必要があることだといえます。

適切な市場における需要と供給
一般論として、市場が適切に機能するためには一定のルールが必要です。
しかし、需要と供給の情報格差が激しい市場は、適切なルールが存在しなかったり、仮に存在していても、市場参加者のモラルが低くなったりすると、市場の質が非常に低くなる傾向にあります。
では、消費者金融の市場はどうだったのでしょうか?
「そんなの借りたヤツがアホなだけだろ!」と公然といわれてしまうぐらい、消費者金融の市場は需要側である借り手が供給側である貸し手に対して、圧倒的に劣った情報しかもたず、弱い立場に立たされています。
だからこそ、その情報格差を少しでも是正し、かつ貸し手が有利な地位を乱用しないようにするルールが必要でしたが、旧法である貸金業規制法などのルールは明らかに不十分なものでした。

でも、不十分ながらもルールは存在していたわけで。

需要者の無知につけ込んで、供給側が悪質な行動を繰り返すのであれば、それはやはり市場が機能不全になっていたといえます。
潤んだ瞳のチワワやセクシーなタイツのダンサー達が「ご利用は計画的に」と無計画な人達をそそのかしてつくられる需要は、本来存在するべきものではなく、実現されないのが望ましいでしょう。

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直近のこと。これからのこと。
暴力的ともいえてしまう程の悪質な貸付が横行していた消費者金融も、規制を大幅に変更した貸金業法の成立によって、状況はかなり改善されたといえます。

・多重債務者(参考:金融庁、JICC)
  2006年3月末 約230万人
  2014年3月末 約17万人

・自己破産の申し立て(参考:司法統計)
  2004年3月末 約25万人
  2014年3月末 約7万人

懸念する声もあったヤミ金の被害に関しても、「各地の警察署、消費生活センター等への被害届、相談件数等は減少している。」と日弁連が発表し、独自にヤミ金利用者の割合をサンプル調査するなどしてチェックしています。

一方、貸金業法を批判する点として出てくる
「完全施行により借りられなくて困っている人が増えた」
「ヤミ金が増えた」
などの主張には、いつも客観的根拠(データ)がなく、現時点では叫んでいる人のただの“思い込み”に過ぎません。
例えば、自民党は現行の貸金業を改正して上限金利を旧法の水準に引き上げ、1人に対して貸せる額に上限を設定した総量規制を撤廃しようとしています。
参考:http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N4IZPZ6K50Z301.html

資料が公表されていないので詳しいことは良く分かりませんが、作業当事者の主張をきくと、やはり裏付けデータは皆無で、残念な議論になっていました。
参考:西田昌司参議院議員(自民党)

しかし、“思い込み”での改正は論外としても、今の貸金業法による規制が最善の策ではないことは明らかです。貸金業法で新たに導入された厳格な上限金利や総量規制といったものは、市場経済に対する規制の中でも非常に強い部類のものであり、経済活動を過剰に制限するといった弊害が発生していることは間違いないからです。需要側である借り手が賢くなって貸し手との情報格差がなくなったり、供給側である貸し手の暴力的な行動がなくなったりすれば、より柔軟な規制もあり得るでしょう。
一方で、この現行規制でも貸し手の特徴である3K(高金利・過剰貸し付け・苛烈な取り立て)が排除されなければ、より厳格な規定も十分あり得ます。

誰もが使うお金の問題です。多くの人のちょっとした興味と理解を積み重ねれば、きっと今よりちょっと良い市場ができるはず。



ちなみに、チワワに罪はありません。。。

参考文献 :井出壮平『サラ金崩壊 グレーゾーン金利撤廃をめぐる300日戦争』
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