「これっておもしろかった?」「おもしろかったよ」「どこが?」「 」 ← ここに入る言葉が見つけよう! ― 近藤史恵のすすめ

自分が好きになったモノを人に「おすすめ」するのって非常に難しいことだと思います。
例えば、ある映画を観て、それを友達に紹介するときに、

「これっておもしろかった?」
「おもしろかったよ」
「どこが?」
「主人公のキャラクターは小人で、世界を支配する力を持った指輪を拾っちゃって、それを葬り去るために人間やエルフといった異種族の仲間と一緒に旅にでるんだ。ちなみにこの指輪は核兵器とかお金の象徴という解釈が昔あったらしいんだけどバカバカしいね。本当は・・・」

これは解説 or 考察するという観点からは満点ですけど、日常会話にのせて言っても理解してくれる人は相当限られるでしょう。大半の人は理解どころか、むしろ呆れてしまうかもしれません。そんな細かいことはどうでもいい、何が一番良かったかを一言で教えてくれ、といった感じでしょう。

もちろんこのようなコミュニケーションの齟齬は人間関係を構築していく上で大きな課題となりますが、これまでならあくまでもクローズドな仲間内だけの話でした。
しかし、今は違います。
小さい文字TwitterやFacebookのようなSNSの発達により、不特定多数に向けて情報を一方的に発信するマスマーケティングが弱体化し、口コミによるマーケティング効果の価値が跳ね上がったからです(バイラルマーケティング)。

マーケティングで重要性を増す「口コミ」
 
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「おすすめ」
顧客紹介価値

テレビCMや新聞広告、看板広告といったマスマーケティング

マーケティングの手法として古くから使われていたのは、テレビCMや新聞広告、看板広告などを使って顧客を集め、営業マンの営業活動を通じて商品情報を提供する形でした。つまり、企業が発信、顧客が受信という役割が明確だったので、企業が顧客をコントロールすることがある程度可能だったわけです。
しかし、ネットによってこの環境が激変します。
顧客はいつでもどこでもネットで検索できるので、営業マンが商品説明するまでのことなく情報を取得し、購入するかどうかを検討します。この場合、商品購入直前にしか企業との接触機会がありません。これは企業側からすると、顧客をコントロールする手段を失ったといえます。

口コミ=他人の「おすすめ」=バイラルマーケティング

そして、このようにネットで商品情報を検索する顧客が重視することは、実際にその商品を体験したことがある人の言葉=口コミ=他人の「おすすめ」です。

この状況を企業側から読み替えると、今まではその顧客が自社にいくらお金を落としてくれるかにフォーカスがあったところ、ネットによる横の繋がりそのものがマーケティングツールになった途端、その人がどれだけ新規顧客を紹介してくれるかといった顧客紹介価値(Customer Referral Value)が重視されるようになったということです。

※ ここらへんに興味がある方は少し古いですがHarvard Business Review 2008/11 『マーケティング論の原点』が詳しいです。


感情を言葉に

感情を言葉に

口コミにおいてインフラとして機能するのはSNSです。このSNSは、これまでの既存メディアと比較して「直感的」な点が特徴とされています。
例えば、ニコニコ動画やTwitterはショートセンテンスで感情をやりとり、もしくは共有するツールとして非常に力を持っています。Facebookもその傾向は強く、LINEのスタンプに至っては感情そのもののやりとりだったりします。

つまり、親しい人に「おすすめ」したり、商品を売るためにマーケティングしたりする際に必要なのは、直感的に良さが分かる言葉や人が思わず手を伸ばしてしまうキャッチーな言葉ということです(キャッチーってもしかして死語かも・・・)。
このようなことをブレイクダウンしていくと、「おすすめ」するという行為は、自分が持つ感情を言葉にする作業ということになるのだと思います。

そんなときに私が「おすすめ」するのが小説家 近藤史恵さんの著作です。


近藤史恵が紡ぐ言葉
近藤史恵とは?

近藤史恵さんの代表作『サクリファイス』

近藤史恵さんは、鮎川哲也賞を受賞したデビュー作『凍える島』や、サイクルロードレースの独特の価値観をミステリーに落とし込んだ『サクリファイス』の大ヒットで知られるミステリー作家です――とよく紹介されますが、実際には数多くの一般小説も執筆されています。
その特徴はミステリー用語でいうところの「Why done it」=なぜ犯人はそんなことをしたのか、という動機部分に強くフォーカスするといったものです。一般小説風に表現するならば、人が何気なく感じている感情や状況をストンと腹に落ちる言葉で表現することにとても長けているということです。


好きなモノ

犬が好きという感情

犬が好きで、犬と一緒に暮らしている人はたくさんいると思いますが、そんな「犬が好き」という感情を近藤さんはこのように表現します。

「まだ片手で抱けるくらい小さくて、ころころして、泣きたくなるほど可愛かった。抱いて帰ってくるとき、小さな心臓の音が伝わってきて、思ったわ。わたしは今、幸せを抱いているんだって」

『三つの名を持つ犬』第六章より引用/徳間書店


ちょっと変化球で、おそらくみんなが大好き・・・・なはずの「優越感」。

すごく欲しいわけではないのに、手に入ってしまった、と思うのは気分がいい。
欲しくて欲しくてみっともなくじたばたしている人たちを、高みから見下ろしているような気分になれるから。

『はぶらし』第一章より引用/幻冬舎


近藤史恵『はぶらし』

自転車やスポーツが好きな方は『サクリファイス』シリーズ、歌舞伎が好きなら『猿若町捕物帳』シリーズ、掃除や恋愛が好きなら『モップ』シリーズといったところが読みやすくおすすめです(ちなみに犬は基本的にどの本にも大なり小なり登場します)。
当然、小説ですから好みに合わないことやプロットや結末に納得できないということもあるかと思います。
ですが少なくとも、好きという感情に心地よくハマる言葉がきっと見つかります。また、現時点でそれらのモノや分野に興味がなくても、これらを読めばなぜそれに惹かれるのかが直感的に理解できるようになるはずですし、自分が好きなモノを表現するヒントにもなるはずです。


困っているコト

鬱屈した人の心 割り切れない感情

そして、これは好きなモノを「おすすめ」するときだけに役立つものではありません。
近藤さんの紡ぐ言葉は、鬱屈した人の心や分り易くない問題に直面してしまったときの割り切れない感情を表現するときに強く輝きます。だからこそ、そういう状況に陥ってしまった人や黒い感情に囚われてしまった人が、自分の置かれている状況を自分自身が正しく理解したり、それを他人に相談したりする際にとても有用です。

困っているコトの相談というのは、当たり前ですが、自分と同じことに困っていない人にその本質を伝えなければなりません。そのときロジカルに全てを説明することはもちろん大切ですが、それを聞かされる側からすると、実感がない分、理解するのが苦痛だったりするわけです。だから、最初のとっかかりとして、まず実感を感じられる言葉を投げかけるのが効果的であり、やはりこれも感情の言語化が大切になります。

近藤史恵『シフォン・リボン・シフォン』

親子仲良くという風潮の中で、不仲な親子のあり方

「いくつになってもね。親と子では絶対にわかり合えない部分があるんですよ。それでも大人になれば、親の方は無理にわかる義理もないし、子供の方は無理にわかってもらう義理もないわけですからね」

『シフォン・リボン・シフォン』第一話より引用/朝日新聞出版


介護者の苦悩

母の介護をはじめたときは、親戚からもよく褒められた。母だってしょっちゅう礼を言ってくれた。
だが、時間が経つにつれて、それは頑張ったことではなく、やって当たり前のことになっていく。最後に母に礼を言ってもらえたのがいつのことなのか、佐奈子はもう覚えていない。
ただ、うまくできなかったことだけを責められるようになる。労働の重さははじめた頃と、まったく変わらないというのに。

『シフォン・リボン・シフォン』第一話より引用/朝日新聞出版


言葉による救い

「自分はおかしんいんじゃないか」 「なんで私だけが・・・」。
そんな自分でも正体が分からずに持て余してしまっている感情に言葉や名前をつけてあげるとそれだけで、人はほっと心を落ち着けることができ、ときには感動し、救われることすらあります。


近藤史恵さんの作品、「おすすめ」ですよ。


ピックアップした作品
三つの名を持つ犬
シフォン・リボン・シフォン


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