タルト・タタンの夢 近藤史恵(著) : 口の中がおいしくなるミステリー

料理はただ食べるためだけでなく、それを作った人や一緒に食べる人の思いを感じることにこそ、その素晴らしさがあることを教えてくれる、「おいしい」ミステリー短篇集。

大まかなあらすじ
舞台はフレンチレストラン――といっても、ホテルに入る高級で華やかなそれとは違い、下町の古い商店街にある小さなレストランです。カウンターとテーブル席が5セットしかないこじんまりした場所ですので、主要な登場人物もたった4人。
高築(たかつき)・・・ホール担当。本作の主人公兼語り部。
三舟(みふね)・・・店長兼料理長。
志村(しむら)・・・シェフ。
金子(かねこ)・・・ソムリエ、ときどきホールも担当。
料理もフランスの郷土料理が中心で、宝石のように飾られたものではなく、鍋ごとサーブするような荒っぽいものです。来店するのは、こういった料理店もの小説によくあるめちゃくちゃ尖った特徴を持つようなお客ではなく、私たちの周りにもいそうな自然体な人たち。
そんな普通の人たちが持ち込んでくる小さな悩みや謎を、料理を通じて解き明かしていきます。

自然体な人たちと気取らないフレンチ
 
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「おいしい」
レストランを訪れるのは肩肘をはらずに料理を楽しむ人たちです。そんな人たちに振る舞われるフランス料理は、どこか家庭の味を彷彿とさせるものであって、そこから発せられる思いやりが本全体に溢れています。

緒方修一さんが携われたブックデザインは凝っていて、目次がメニューリストのようになっています。

近藤史恵『タルト・タタンの夢』の目次

そして文字だけで表現されているにも関わらず、出てくる料理がとてもおいしそうなのです。

本のタイトルにもなったタルト・タタン。
本のタイトルにもなったタルト・タタン
出典:らいちゃんの家庭菜園日記

ロニョン・ド・ヴォー
ロニョン・ド・ヴォー
出典:Shinoriのブログ

ガレット・デ・ロワ
ガレット・デ・ロワ
出典:にこにこ朝ごはん

オッソ・イラティ(チーズ)
オッソ・イラティ(チーズ)
出典:かじたいずみチーズ教室★日記

カスレ
カスレ
出典:まだまだhappyなひと時☆彡

そして、高ぶってしまった感情や動揺した心を落ち着けるとき、ここぞ、とばかりに登場するヴァン・ショー(ホットワイン)
ヴァン・ショー(ホットワイン)
出典:マイナビニュース

これらは舞台設定として準備されるただの置物としてではなく、袋小路に突っ込んでしまった人たちの感情を優しく溶かしたり、それ自体が伏線となっていたりします。


内側から見る景色と外側から見る景色
感情が作るすれ違い

人は清廉潔白に生きようとしても、なかなかそうはいきません。好きな人ができたら独占してしまいたくなるし、自分より成功している人を見れば妬ましくなるし、自分のプライドが傷つくようなことはちょっとしたことでも隠したくなったりします。普段はこういった感情が表にでないよう自制しているものの、突然ふとしたことでそのブレーキが壊れて、はたからみると愚かな行動をしてしまうのは、きっと誰しも多かれ少なかれ経験があるはずです。
しかし、外側からみれば愚かであっても、当事者本人にしてみれば、自分ではコントロールできない状況の中、いたって真面目に考えた末に追い詰められ、ある意味合理的な結論としてその行動を選択していたりするわけです。

ときに自制をすり抜けていく黒い感情

そして、このような内側と外側、それぞれから見る認識のギャップは黒い感情だけによってもたらされるわけではなく、相手を大切に思うがゆえに起こることもあります。つまり、感情のすれ違いによって分かり合えなくなってしまうということです。自分は相手を思いやり、十分な対応をしているつもりでも、実はそれは相手に屈折して伝わってしまっていて・・・

そんなとき、相手を理解したり、分かり合ったりするための材料は何も言葉や行動だけではなく、「行動の結果として作られた料理にしっかりと宿っていますよ」ということを本作はゆるやかに示唆してくれます。
本作の中の1短編『オッソ・イラティをめぐる不和』は、まさにこのようなすれ違いが起こりがちな夫婦間のいざこざの話ですが、タイトルにもなった料理が絶妙な伏線になっていて、すれ違いというカーテンに隠されたその向こう側へ私たち読者をいざなってくれます。

親しいから、思い合っているからこそ、すれ違うことはある。
だけど、分かり合えるきっかけはすぐそばに転がっている。
読み進めていくうちに自然とそれが理解できていくからこそ、それぞれの悩みが料理によって溶かされていく結末部分で心地よい余韻を残していくのだと思います。


デザートは素数のチョコレート

割り切れないチョコレート

本作はこのような感情のすれ違いの種類を少しずつずらした短篇集です。

そして、この短篇集の最後、いわばデザートにあたる『割り切れないチョコレート』では、この割り切れない感情がかなりストレートに、かつ見事に表現されています。

外にも、そして内にも態度が悪いショコラティエ。
彼はなぜ、チョコレートに執拗なほどこだわるのか。
彼はなぜ、かたくなまでにチョコレートの個数を素数とすることに固執するのか。

この物語の結末は、外側からみるととても悲しいものかもしれません。
しかし、これを内側からみる私たち読者は、まるでおいしい料理を食べた後にも似た、とてもあたたかく穏やかな気持ちを胸に抱きつつ、本を閉じることになるのです。


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