今の日本人にApple Watchはいらない
出典:Apple『Apple Watch』 HP

アップルから新商品『Apple Watch(アップル・ウォッチ)』がいよいよ発売されます。
携帯電話のように「持つ」のではなく、「常時身につける」こととなるスマートデバイス=ウェアラブルデバイスですが、これまで他社から発売された主な商品(腕時計型ではSamsung『Gear』・Sony『SmartWatch』、メガネ型ではGoogle『Google Glass』など)はことごとくユーザーの期待にかなうものではなかったことから、このジャンルにおける大本命とされてきた『Apple Watch』に注がれる期待は大きく、発売前から話題となっています。

しかし、発売前の評価としてはあまり芳しくなく、主にデザインが叩かれています。

参考:
Apple Watchにファッション業界冷ややか 「手首に着けたいだろうか」 │ The Huffington Post
正直すぎる…Apple Watchに対する海外ネットの反応 │ GIZMODO

このエントリーでは批判を集めているデザイン問題をちょっと横に置き、アップルがこの商品に込めようとしたものは一体なんなのか、そして、それが日本人(正確には日本在住の人)のユーザーにどのように影響するのかを考えてみたいと思います。
 
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アドバンテージ
『Apple Watch』のアドバンテージ

『Apple Watch』に関する記事をみていると、
  • ポケットからiPhoneを取り出す行為
  • 片手でiPhoneを持つ行為
を短縮できることが最大のアドバンテージといった着眼点で語られています。
参考:
林信行による世界先行レビュー:Apple Watchが腕時計とウェアラブルの概念を変える │ ITmedia
堀江貴文の時事ネタ評論 (#65)

でも、これってウェアラブルデバイス全般にも当てはまっていて、しかも一部は既に実現していることだったりするのにも関わらず期待された成功に至っていません。なので、仮にそれらを普及するためのポイントとするなら、それと同じ魅力しかない『Apple Watch』はやっぱりダメだ、という結論に着地するし、そもそも『Apple Watch』が普及することには微妙に論点がズレていると思います。

では、アップルが『Apple Watch』を普及するために重視したポイントとはどこなのかといえば、おそらく腕時計ならではの特性、手首から「外さない」ということを徹底的に突き詰め、それに対応するサービスを準備した、もしくはしようとしていることなのだと思います。


「外さない」
「外さない」=「行動を1日中モニターできる」

「外さない」=「行動を1日中モニターできる」

これまでも歩数や消費カロリー量、心拍数を計測するスマホアプリや腕時計はありましたが、それの利用方法はヘルスケア分野におけるスポーツやダイエットといったジャンルに限られました。
しかし、それらは巨大なヘルスケア市場におけるニッチな領域に過ぎません。ヘルスケアの本丸は医療です。
行動を1日中モニターできるということは、ユーザーのバイタルデータを常に記憶できるようになるということであり、これを直接医者に送信し、かわりに簡易診断やアドバイスを受け取るみたいなインタラクティブな医療サービスが実現可能になることを意味しています。この医療サービスにおいて、ユーザーと医者の間をアップルが仲介することを目論んでいることは『iOS 8』に実装された『HealthKit』と今回の『Apple Watch』と同時にプレスリリースされた『ResearchKit』の存在から明らかです。前者はユーザーのバイタルデータをアプリ開発者に開示し、アプリ開発者はそれを使ってユーザーに何らかのサービスを提供するもの、後者は医療研究機関に開示して、医療の研究や調査を支援するものとなっています。
つまり、ユーザーのバイタルデータをより正確に、かつ広範に取得する高機能なヘルスセンサーの存在は他の類似商品から明確な差別化要因になります。

高機能なヘルスセンサーは実装見送り
出典:Apple『Apple Watch』 HP

しかしながら、この高機能なヘルスセンサーを小型の腕時計裏に詰め込むことはAppleの技術力をもってしても困難であったようで、加えて医療診断に関する問題は規制当局の許認可といったことも絡んできて、結局、今回はこの分野の研究をしているというアピールにとどまり、本格的な実装は見送られました(参考)。


「外さない」=「なくさない」

もう1つは「なくさない」ということです。今の日常生活においてなくすと困るものの筆頭なのが財布・鍵・携帯だと思いますが、『Apple Watch』はこの財布と鍵部分のサービスに力を入れ始めています。

『Apple Watch』の財布機能=『Apple Pay』

まず財布です。
アップルは2014年10月から『Apple Pay』というサービスをアメリカで先行して運用しています。これはiPhoneを使った電子マネー決済のことで、日本でいうところのおサイフケータイです。『Apple Watch』にもこの機能が搭載されていて、事前の登録作業さえしておけば、レジに近づけるだけで支払いをしてくれます。財布をカバンから取り出す必要はありませんし、自分の生活圏でよく行くスーパーやコンビニが決済できると知っている状態ならば、そもそも財布を持ち歩く必要すらなくなります。よく話題になる「小銭で手間取っててレジ待ちがウザい」みたいものもなくなります。
正直、時計型のウェアラブルデバイスはこの電子マネー決済をするためにあるといってもおかしくないほど、ぴったりな仕様です。

『Apple Watch』の鍵機能=『キーレスシステム』

次に鍵です。
Starwood系の一部のホテル(Aloft、Element、Wブランド)では、事前に専用サイトから予約しておけば、フロントを素通りして直接部屋に行き、ドアに『Apple Watch』を近づければ自動で解錠します(参考)。つまり、完全なキーレスです。
アップルがリビングに置くテレビ(現行の『Apple TV』のようなセットボックスではなくテレビ本体)や自動車開発に乗り出しているという噂は広く知られていますが、このようなことから考えても、家のドアの鍵や車の鍵を『Apple Watch』でコントロールするようなことを目指しているのは明白でしょう。鍵の開け閉めといった日常生活で必ず繰り返さなくてはならない動作を短縮できることは非常に魅力的ですし、企業におけるドアセキュリティや社員の出退勤管理システムなんかにも使えたりするので、汎用性も高いといえるでしょう。

『Apple Watch』と『iPhone』

ちなみに携帯もなくすと困りますが、『Apple Watch』があれば、そもそもiPhoneをポケットやカバンから取り出すことが減るので、iPhone自体を紛失するという最大のリスクは低減します。『Apple Watch』はiPhoneとペアでないと使用できないことが弱点とされていますが、実はペアであるがゆえにiPhone単体のときよりもうまくリスクヘッジされていると言うことも可能なわけです。
しかし、これは何も『Apple Watch』特有のアドバンテージではなく、また、どう考えても『Apple Watch』さえ持って出かけたら不自由なく生活できるといった方が利便的ではあるので、やっぱりこの点は人によって意見が別れるかと思います。


日本のユーザーにとって
利用できるアドバンテージがない

日本のユーザー

『Apple Watch』は、手首から「外さない」ということを突き詰めることで、非常に特有なアドバンテージの獲得を目指した野心的な商品です。ですが期待された『高機能ヘルスセンサー』は導入されず、財布機能である『Apple Pay』はアメリカのみの運用、鍵機能はまだ使用できる場所がほとんどありません。非常に残念なことに、これらのアドバンテージは日本で利用できなかったり、サービスが実用レベルにならずに実装が見送られたりしてしまったわけです。
つまり、日本に暮らす私たちにとって、今回の『Apple Watch』はせいぜい「出来のいい万歩計」程度の製品となってしまっているということです。


アップデートされても・・・

仮に画期的なアップデートがあって『Apple Pay』やヘルスケア部分が使えるようになったり、誰も想像していなかったような魅力的なキラーアプリが登場したとしても問題があります。バッテリーです。
バッテリー、つまり電池持ちに関してはScott Stein (CNET News)のレビューが詳しいのですが、ポイントは以下のような感じです

  • バッテリー持続時間は公称18時間。
  • バッテリー容量は午前7時を100%とすると、50%を切るのは午後2〜3時。
  • 午後11時過ぎまでバッテリーが持続することはなかった。
  • 音楽を聴き続けるなどした場合の持続時間は6.5時間。
毎日夜には充電が必須となるので、夜中には時計として使えないし、サイレントアラームを目覚ましとして使うこともできないし、睡眠状態の把握といったことにも使えません。
加えて、財布や鍵機能といった日常生活の必需機能を担わせる際にこれは致命的で、一晩飲み明かした or 徹夜で仕事してたらドアの鍵が開けられてなくなった、ではシャレになりません。つまり、今回の『Apple Watch』では後からサービスが実装されても快適な使用環境にはならないということです。

『Apple Watch』の電池持ち

ここらへんは初期のAndroid携帯で起きたことに似ていて、スマートデバイスはなんであれ通常使用で2日ほど電池が持つことはもはや必須なのだと思います。

参考:
【Q&A】とにかく電池が持たない!バッテリーを節約するにはどうすれば? │ スマホガール
「は、はじめましてっ!IS04ですっ!REGZAフォンと呼んでください!」 │ VIPPERな俺
私自身もこの時期のAndroid携帯ユーザーだったので、おサイフケータイ機能の1つであるモバイル電車定期券を使っていましたが、電車を乗っている最中に電池切れして、駅から出られなくなったことが何回かありました・・・


アップルの戦略
アップルとしても、搭載を目指していた機能やサービスを採用できなかったことは忸怩たる思いがあったと思います。
しかし、開発期間が長期化すれば、どこかの時点で一旦投資回収しなければなりません。しかも、今回は失敗したときのリスクが意外と小さいのもそれを後押ししたと考えられます。この市場はそもそも誕生したばかりなので、たとえ粗削りなものを投入してその時点で叩かれたとしても、後から「あのときは若かったのさ、ハハっ」と言えますし、たとえ購入したユーザーの反応がいまいちだったとしても、次の『Apple Watch』の購入の際に慎重となるだけで、iPhoneユーザーが次のiPhoneを買わなくなるわけではなく、あまつさえ他社の類似商品にユーザーが流れることもありません(腕時計型ウェアラブルデバイスは事実上、特定スマホ端末 or 特定OSとのペアリング以外では動作しない仕様となっているため。現状iPhoneとペアリングして動作するものはほとんど存在しません)。

スケールダウン

当初目標としていたところからスケールダウンさせて商品をローンチすることはよくあることなので、今回はまぁそういうことだったのでしょう。
だからこそ、ライフスタイルを変えることを目的とした機能面ではなく、腕時計としてのカッコよさ、つまりファッション面を全面に出してプロモーションしているのだと思います。
参考:
Apple、パリコレでApple Watchイベントを開催。ファッション界に進出 │ TechCrunch Japan
Apple Watchが米人気ファッション誌「Vogue」に多数登場 │ iPhone Mania

ファッションにする以上、あまり安くするとそのこと自体がチープなイメージに繋がってしまいます。ですので難しい判断だったと思いますが、グローバルでみても落ち目だった時計市場をV字回復させた中国市場の需要を見込み、そこで受け入れられる価格帯の通常モデル(中流階級向け)+金ピカの超高級モデル(富裕層向け)を準備し、それ以外を廉価のスポーツモデルでカバーするといった価格設定にしたのではないかと想像できます。

18K イエローゴールド
出典:Apple『Apple Watch』 HP


選択肢
OSのアップデートやセキュリティの問題、バッテリーの劣化、デジタルデバイスならではのデザインの陳腐化などもあって、商品のライフサイクルはスマホと同じ2年程度でしょうから、購買層たるiPhoneユーザーで財力が普通からそこそこの人が持つ選択肢は、さっくりとこんな感じではないでしょうか。
2年ごとに4〜7万円を投下し続けて常に最先端腕時計を身につける。(2年経過時点での残存価値はおそらく0)
100万円超の初期投資でDAYTONAのような高級腕時計とステータスを手に入れる(定期的なメンテでさらにお金がかかるが、形見なんかで子供に譲れるので残存価値はそこそこある)
潔く1,000円の腕時計 or 万歩計を購入する
とりあえず様子を見る=購入しない

どれが最適な選択肢かはもちろん人それぞれです。
しかし、今回発売される『Apple Watch』に関してはこれまで見てきた通り、少なくとも日本において①をとる意味は限りなく薄いでしょう。

『Apple Watch』に関するユーザーの選択肢


おまけ

(このエントリーは『Apple Watch』の発売日の前日である2015年4月23日にアップしています)
とやかく言っても、デジタルまわりは何が起こるか分かりませんから、もしかしたら日本でもユーザーの満足を集め、大ヒットするかもしれないですね(絶賛言い訳中)。

また、医療関係のヘルスケア機能、財布機能、鍵機能の開発が進んでいることは間違いないことであり、バッテリーまわりが改善された上で本格的に実装されれば、おそらくもっと幅広い層のユーザーがこの商品のアドバンテージを感じることとなるでしょう。そういった意味で、やはりこの腕時計型のウェアラブルデバイスは大きな飛躍の可能性を秘めた事業ドメインであると思います。

さらに、GoogleやMicrosoft、AmazonといったITメジャーが軒並み、あらゆる顧客データやビッグデータを利用してサービスを展開しようとしている中で、Appleはそれらを利用しないという明確な対立軸を打ち出しています。
参考:
顧客データはもう集めない アップルが下した決断 │ 日本経済新聞
Appleが先日発表した「ResearchKit」が非常におもしろい理由 │ lifehacker
新サービスとなる決済サービス『Apple Pay』ではユーザーと小売店を、ヘルスケアサービス『HealthKit』『ResearchKit』ではユーザーと医者をつなぐプラットフォームは提供するものの、データ自体はアプリ内で直接やり取りされるため、アップルが顧客情報にアクセスできない仕組みとなっています。ビジネス的にはまさに逆張り戦略的な立ち位置なのでかなりリスキーと言えますが、1ユーザーとしてみれば、これは非常に心地よいものであり、素直に応援できるものだったりするのです。


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K_shell 年代:30代 職業:金融 Apple Apple_Watch アップル Apple_Pay ヘルスケア 腕時計 olds53.jpg
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