人の思いを描くのに必要なこと ― 片渕須直監督の劇場版アニメ『この世界の片隅に』で行われた制作支援メンバーズミーティング

テレビアニメ『BLACK LAGOON(ブラック・ラグーン)』シリーズや劇場版アニメ『マイマイ新子と千年の魔法』の監督である片渕須直さんが手がける最新作『この世界の片隅に』。この作品を企画・制作するにあたって行われたクラウドファンディングへの参加者に対して、2015年7月に制作支援メンバーズミーティング(以下「支援Mtg」)が開催されました。私も参加してきましたので、感想を書いてみます。

ではまず、(長すぎる)前フリを・・・


映画市場における「アニメ映画」の存在は、もはや1つのジャンルとして位置づけられています。直近10年ほどでは、スタジオジブリやディズニーといった有名スタジオの作品や毎年新作が公開されるような一部の定番作品、そして深夜アニメ系の映画作品が他ジャンルと比較しても堅調といえる興行成績を収めている状況です。
ですが、この良い流れの中、広く一般に向けたアニメ映画のみ大苦戦が続いています。

【直近10年におけるアニメ映画の興行収入ランキング】
直近10年におけるアニメ映画の興行収入ランキング
※ 一部推計 出典:日本映画製作者連盟及び興行通信社の資料を基にK_shellが作成

アニメ映画の収入は、①劇場公開時の興行収入、②劇場公開後のDVD・BD(ブルーレイディスク)販売収入 にざっくりと分けられます。
まず①ですが、近年ヒットした作品名を見れば分かる通り、そこに名を連ねるのは、アニメにそれほど興味がない人でも必ず耳にしたことがある制作スタジオや有名シリーズの作品がほとんどです。このことから、アニメ映画を映画館で鑑賞しようとする顧客の大半は、制作スタジオやシリーズ名などの「知名度」を重要な判断基準として、映画館に足を運ぶか否かを決定することが多いといえます。
また、②のDVD・BD(ブルーレイディスク)を購入するのは、いわゆる「ヘビーユーザー」層であり、購入対象はもっぱら深夜アニメ系の作品となります。
つまり、一般観客層向けに作られるアニメ映画作品は、最も広くターゲティングされているにも関わらず、「知名度がない」+「ヘビーユーザーにウケる絵柄ではない」という理由から、収入に結びつかないわけです。

もちろん、収入的に成功したアニメ映画の魅力が「知名度」や「ウケる絵柄」だけでないことは間違いありません。劇場公開時に話題になったり、DVD・BDの販売が好調であったりして、しかもそれらが次の作品作りに繋がっているということは、個々の作品内容としても、「質」的な魅力をちゃんと持っているということでしょう。

では、それらと比較してヒットしない一般観客層向け映画の内容はどうかといえば、決して劣っているということはありません。単純に「面白い」「見てよかった」「泣けた」というものから、強い作家性やメッセージ性があって精緻な考察や批評に耐えられる強度をもったものまで、その種類は様々ですが、良質な作品が多いのです。そういった作品が結果として、ほとんどの観客の目に触れることすらなく、ひっそりと市場から退場していく現在の状況は、本当に残念でなりません。


アニメは人の心と財布をも動かせるのか?
アニメは人の心と財布をも動かせるのか?

非常に厳しい環境の中での制作を余儀なくされている一般観客層向けのアニメ映画。この問題はかなり構造的に根深いものを孕んでいて、これさえできれば全部解決するといった簡単な処方箋はありません。法律の整備や業界体質の変化、そしてそれを後押しする世間や行政に対する地道な働きかけとアピールが必要であり、一朝一夕に解決とはいかないのです。

そんな中、現状をよしとせず、自分たちでできることをやって問題解決の糸口を掴もうとする、非常に勇気ある行動が起こされました。それが片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代さん)のアニメ映画化に関するクラウドファンディングです。

関連記事 :アニメは人の心と財布をも動かせるのか? 片渕須直監督の劇場版アニメ『この世界の片隅に』で行われるクラウドファンディングへの挑戦
※ 片渕監督が起こした行動の意味とは何なのか、アニメ業界が抱える問題とは何なのか、クラウドファンディングという聞き慣れない言葉の意味などを拙いながら解説しましたので、よろしければこちらもご覧ください。


片渕須直監督の劇場版アニメ『この世界の片隅に』で行われるクラウドファンディング

クラウドファンディングとは、銀行や機関投資家といった金融専門家ではない「クラウド=大衆」から「ファンディング=資金調達」する仕組みのことです。資金提供者に対して、配当などのいわゆる金銭の分配ではなく、実際の制作物やグッズなどのリワードが与えられるといったことも特徴とされます。
今回、劇場版アニメ『この世界の片隅に』で行われた支援Mtgもそのリワードの1つで、いわばこの作品に出資した人たちが集う株主総会のようなものです。

この支援Mtgは地域や開催時刻が限定されていたこともあって、泣く泣く参加できなかった方もいると思います。参加したんだけど、パイロットフィルムを観て泣きすぎて、話の内容をうっかり忘れてしまった人もいるかもしれません。また、『この世界の片隅に』のアニメ映画化の話を最近知り、本当は参加したかったのに・・・という方もきっといらっしゃるはずです。
そんな方々への情報共有や記憶喚起の一助にこのエントリーがなっていれば幸いです。

なお、講演中の録音や撮影はNGとのことでしたので、内容は私のメモベースのものとなります。一部正確性に欠ける記述があると思いますが、ご容赦を。

 
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制作支援メンバーズミーティング
『この世界の片隅に』制作支援メンバーズミーティング
会場の入口付近
開催日2015年7月11日
会場東京(西荻勤労福祉会館)
登壇者監督:片渕須直、 プロデューサー:丸山正雄・真木太郎、 制作プロデューサー:松尾亮一郎、 宣伝担当兼司会:山本和宏 (敬称略)
備考参加回はD、参加者数は約250人(内、女性が2割ほど)

支援に対する御礼

『この世界の片隅に』制作支援メンバーズミーティング
開場時に缶バッチと小冊子をもらう。

発言者:丸山さん

  • やっとこの日が来た。
  • この映画は準備だけはしっかりしてきた。し過ぎかもしれないほど(笑)。でも、その成果はきちんと出せていると思う。1コマの密度が濃い作品になってきている。
  • 本作『この世界の片隅に』は、商売としては非常に難しい作品でもある。見る人によって内容のとらえ方が様々なため、一言で「何がウリなのか」を表現しづらい。そういった作品に対しては、なかなかお金を出してくれる人が見つからない。
  • 実際、この映画を作るためにお金を出してくれないか、と色々なところへ頼みに回った。しかし、返事は芳しくなかった。
  • そこでたどり着いたのがクラウドファンディングだった。皆さんの支援によって企画は大きく盛り上がり、他の関係者へのアピールも以前とは比べものにならない程、うまくいくようになってきている。
  • 今年は戦後70年目。話題作りという観点では、70年記念作品として今年公開した方がよかったということもある。だけど、その「70年」とは一体なにを記念し、そしてそのこと自体に意味があるのか、ということを考えると若干思うところがあった。幸か不幸か、本作は戦後71年目に公開することになったが、それはそれで、非常に意味のあることだと考えている。
  • このように考えられるようになったのも、そして、映画完成前に観客の方々と会話できる貴重な機会を頂けたのも、全ては支援してくれた方々のおかげ。本当にありがたい。

開始前の会場の様子
開始前の会場の様子

発言者:真木さん

  • クラウドファンディングでは、3,300名を超える方々から約3,600万円を支援してもらい、感謝に堪えない。
  • 最初は本当にお金が集まらなかった・・・そんな中、クラウドファンディングが開始され、喜ばしいことに開始直後から順調に資金を集めた。
  • そして、この盛り上がりに最初に反応したのが映画館だった。ぜひこの映画を上映したい、と。
  • この映画を見たいと思って支援してくれた方々と日々映画に接している映画館の方々双方の反応がシンクロしていて、そのこと自体がこの映画の性格を表していると感じている。
  • 実際に映画が完成するのは、おそらく来年の今頃、公開は秋。つまり、まだ1年以上ある。
  • 本日、たまたま『バケモノの子』(細田守監督)の公開初日だが、本作の宣伝費は『バケモノの子』の1/10しかない。
  • 支援してもらった上でさらにお願いとはとても申し訳ないのだが、皆さんにはぜひ、この映画を宣伝して頂きたい。皆さんに支援してもらったお金によって、映画は完成にこぎ着ける。それを1人でも多くの人に観てほしい、それが私たちの気持ちです。


現在の制作進行状況

レイアウトの展示
レイアウトの展示。もととなった原作マンガのコマと見比べられるようになっている。

発言者:松尾さん

【脚本と絵コンテ】

  • 準備期間が長かったこともあって、終了済み。

【作画】

  • 本日上映するパイロットフィルムで使用しているのが50カット。これを含めて220カットまで作画済みで、これは全体の約4割に相当(※ つまり、全体では約550カット)。
  • 背景・美術は約1割、打ち合わせまで終了。早いとは言えないが、制作が決まっていなかったクラウドファンディング開始の段階からしてみれば、考えられないようなスピード。

【制作スタッフ】

  • 支援のおかげで増員することができた。春には8名だったのが、現在は16名。
  • 特に美術スタッフを入れられたことに大きな意味があった。これによって原画に色をつけることができ、イメージを共有しやすくなった。
  • 最終的には200名ちかいスタッフの力を結集して、映画の完成を目指していく。
  • 声の出演者は2015年の冬までに決める予定。


これまで行ってきたこと

レイアウトの展示
レイアウトの展示。終始、列が途切れない。

発言者:片渕さん

【これまで行ってきたこと】

  • 際限なく身銭を切ってきました(笑)。今年の正月には4,500円しか手許になかった。財布の中ではなく、預金口座に・・・
  • だから、今回は本当にありがたい。クラウドファンディングによって、実際にお金が集まるということが単純に驚きだった。そして、自分だけが身銭を切ったわけではないということも嬉しかった。私たちは仲間です。

【戦後71年目に公開する意味】

  • 興行的にどうなんだ、ということは確かに言われる。しかし、『この世界の片隅に』を紐解いていくと、昭和20年8月6日もしくは15日で話が終わらないところは見逃せない。
  • 私たちは戦後70年目だから戦争を思い出すのではなく、71年目だったり、もしくはそれ以外の時期であったりしても思い出さなければならないのかもしれない。そして、戦争だけでなく、当時から途切れることなく今へと続いてきた人の営みにも思いを巡らせる必要があると思う。そういった意味で、71年目の冬という時期に公開できるのは、個人的には嬉しい。

【なぜロケが必要なのか?】

  • マンガのコマが正方形だから。映画は縦と横の比率が1:1.85というVista vision。つまり、左右どちらかに何かを描き足さなければならない。『この世界の片隅に』における「この世界」を表現するには、適当なものや分からないもの、存在しないものを書き足してはいけないと思った。
  • 「この世界」がどうなっていたのかを理解しないと、「片隅」は描けない。だから、実際に現地に出向いて調べたり、電話帳をたよりに当時の店の配置を特定したりしていった。
  • もちろん、これはアニメの作業か? と思った(笑)


ロケをして分かったこと

レイアウトの展示

発言者:片渕さん

【原作の最初に登場する江波の一コマ】

  • 松を目印にして探し当てました。すると左側には海があり、遠景には江波山、その山頂には気象台(現在の広島市江波山気象館)があることが分かった。ただこのコマの時期における気象台はまさに建設途中であり、その姿はさすがに想像できないので、おそらく劇中では、うまくフレームを切ることで映り込まないようにすると思う。
  • ちなみにこの松は、所有者の方が家を建て替えられた際に根っこが傷ついてしまい、残念ながら現在はカサつきの灯籠みたいなものになっている。
  • 同じコマで描かれているはしご模様のような壁=海苔を干している様子も調べた。これは海苔巻きの巻きすのようなものに海苔を貼りつけて干している。そして、実際に自分たちでも作ってみた。
  • この海苔の作り方は東京の大森で習ったのだが、実は江戸前と広島では海苔の作り方が異なることが分かった。はしごを葦(あし)で作るのが江戸前、竹で作るのが広島、その方向も江戸前は縦で広島は横。全然違う。
  • 当初、はしごの数は6段で作画していた。しかし、広島でレイアウト展を開催したとき、指摘を受けた。「広島のはしごは7段ですよ」
  • 慌てて直しました(笑)。だけど7等分を描くのはとても難しい。仕方がないので、一旦8等分して、1段切り飛ばすことにした。

【ヨーヨーで遊ぶ子供のシーン】

  • なぜヨーヨーなのかというと、昭和8〜9年にかけて空前のヨーヨーブームが到来していたから。
  • 原作者のこうのさんにヨーヨーブームについてご存知だったか伺うと、自分は理系の出身(高校は化学部、大学は農学専攻)で、地理や歴史には疎いため、原作連載時に調べられるだけ調べたとのこと。

【何度か登場する橋のシーン】

  • これも調べた。橋は相生橋(あいおいばし)。上から見るとT字型になっていて視認性が良いため、原爆投下の際の投下目標とされたことは有名(実際には少しズレた地点に投下)。
  • しかし、原作中では単純なT字型になっていない。実際に調べてみると、大まかには以下のような変遷を辿っていて、原作における描写は極めて正確だった。
相生橋の形状の変遷

  • そして、この橋が物語の終盤にもう一度登場する(原爆投下後)。原爆の爆風の影響で橋桁が外側に倒れており、その様子は写真等で確認できることから、主人公たちが立っている位置すら正確に分かる。
  • このとき、相生橋の上に立った主人公たちの目の前に広がる光景は全く描写されていない(視点がちょうど入れ替わる形となるが、主人公たちが目にした光景=爆心地である中島本町の写真はこちら)。

【この世界の片隅に、たしかにあるもの】

  • 原作では、何気ない描写の1つ1つが膨大なリサーチによって支えられている。しかし、それをあえて詳しく説明しないスタンスをとっている。なぜか? それは説明の有無に関わらず、「この世界」が厳然と存在しているから。そして、その中の片隅に置かれた人を描こうとしているから。


戦艦大和

『この世界の片隅に』で描かれる戦艦大和

発言者:片渕さん
  • 原作には、昭和19年4月の描写として、呉軍港に戦艦大和が入港してくる様子が描かれている。これが本当なのか確かめようとしたが、そもそも呉軍港の入出港記録があるかどうかすら分からなかった。そこで色々な本に書かれていたことを集めて、自分でイチから作成した。
  • 4月1日には既に呉にいる。出港は10日。再入港は17日。つまり、あの描写は昭和19年4月17日ということが分かる。
  • ちなみに、同日、実は戦艦武蔵もドック入りしていて、原作ではちょうど木で隠れていて見えない。作画的には助かりました(笑)
  • この次に大和が呉に立ち寄る場面も原作にはきちんと描かれている。それは昭和19年6月29日。実はこの直前、日本はマリアナ沖海戦で大敗北を喫して、アメリカに南方の島々の支配権を奪われている。そして、その基地からB29が飛び立ち、本土空襲が始まることになる。
  • このような経過があるが、それは大きな世界の話であって、片隅にいる主人公からは見えない。
  • そして、直接的な表現ではないが、大和が関係する場面はまだ存在する。
  • 主人公が夜中に突然の鳴った空襲警報に驚いて頭をぶつける場面があるが、これは昭和20年3月28日〜4月1日にかけて呉軍港に飛来したB29によるもの。このB29は港に機雷を撒きまくっている。これによって、呉に停泊中の軍艦は港内に閉じ込められた。戦略目標には大和も含まれていたが、大和は機雷が撒かれた湾の反対側に待機していたため助かり、その後呉を脱出したため、アメリカ軍は大和を見失ってしまう。
  • その大和を三田尻にて発見したB29の偵察機=昭和20年4月6日、主人公が呉の上空に見つけた一筋のひこうき雲、それを引いたB29そのものである(この日、呉上空を飛行したB29が1機だけ存在することも確認できている)。この翌日、大和は大破・沈没する。
  • このように戦艦大和の物語としてみても十分成立するほどの事実描写がされているが、やはりこれも詳しく説明されることはない。「この世界」は本物の世界であり、その片隅にいる人から知覚できる範囲で物語に関わる、その強いこだわりが伝わってくる。

準備にしっかりと時間を費やした片渕監督
準備にしっかりと時間を費やした片渕監督(支援Mtg後)

こうのさんが「仕事を始めると、趣味は調べ物にしかならない」とおっしゃていた。ボクもだ、と思った。
こんなことをやってきました。準備に2年かかるでしょ(笑)?



パイロットフィルムについて

『この世界の片隅に』パイロットフィルム

発言者:片渕さん

【パイロットフィルム】

  • パイロットフィルムを作っても、このような早い時期でたくさんの方々に観てもらう機会はない。完成披露試写会のような晴れがましい気持ち。だが、まだ5分しか作っていないと考えると愕然ともする。

【雑草を使った料理】

  • 実際にひと通り調理して食べてみた。カタバミなんかは本当にスッぱくて、ちゃんと味がつく。

【中島本町】

  • 冒頭のシーンは中島本町。ここは原爆の爆心地から170m程しか離れておらず、8月6日以降は何もなくなってしまった(現在の広島平和記念公園)。
    しかし、番頭さんが呼び込みをしていた大正屋呉服店だけは残り、今でも広島平和記念公園のレストハウスとして使われている。そして、ここで本作『この世界の片隅に』の制作発表を行った。
  • この店の手前にあったのが大津屋。写真は残されていなかったため、当時の姿をご存知の方々にヒアリングして、絵を作り上げていった。
  • 中島本町の方々の多くは原爆で亡くなっている。ただ、国民学校で学童疎開していた人たちの中には今でもご健在の方が多く、たくさん話を聞くことができた。
  • そういったヒアリングの中で写真も見つかり、当初予定になかった場面を使うようになったシーンもある(例えば床屋)。
  • レイアウトを始めたのが丸2年前。まっさらな地図を埋めていき、アニメとして使える場所を探していった。色をつけることができたのは本当に最近の出来事。そうやって作ったシーンの長さが3秒。丸山さんに「短いよ、もっと伸ばしてよ」と怒られた(笑)。
  • ヘンな頑張りかもしれないが、それでも頑張っていくことが原作のマンガで行われたことに通じていると思っている。

【戦艦大和の入港シーン】

  • 呉に入港する際にどのような旗旒信号が出されるのかといったことも、分かる範囲で調べて描いている。

【対空砲火のシーン】

  • (パイロットフィルムでは弾幕が灰色)あれは嘘。アメリカ軍の対空砲火はあの色だが、日本海軍のそれはぎょっとするほど色とりどり。これは地上から見た人たちだけでなく、当時のアメリカ軍パイロットの報告にも書かれている。それは何色で、色素はなんなのか、といったことも分かったので、本番では修正する予定。

【モンシロチョウ】

  • 昭和20年3月19日のシーンだが、広島ではまだ羽化のシーズンではない。これも修正する予定。


こうの史代さんについて

原作者:こうの史代さん

発言者:片渕さん

  • 親御さんが教育熱心で、持っていたマンガは『はだしのゲン』第2巻ともう一冊だけ。そんな中、広島の大学を辞めてマンガ家になられた。
  • ロケに行ったときの様子が中国新聞に掲載され、それを読んだ親御さんから「初めて世の中の役に立っている」と褒められ、それがとても嬉しかった、と教えてもらった。
  • ちなみに兄弟みんな松本零士ファンとのこと。


オフレコ

発言者:片渕さん、山本さん

  • パイロットフィルムで使用した音楽はこのフィルムのみで使用許諾をとったため、完成版で使われるかは未定。
    →フォークの名曲『悲しくてやりきれない』のコトリンゴさんによるカバーバージョン(制作支援メンバーズ通信 #01より)
  • 実は一部の作画がどうしても描けなかったため、ある人にお願いして描いてもらっている。
    →オフレコ継続中。


完成に向けて

片渕須直監督の劇場版アニメ『この世界の片隅に』で行われた制作支援メンバーズミーティング

発言者:片渕さん

  • この作品の背景にあるのは絵空事ではなく、本当にあった世界であり、連綿と続いている。今ある道がずっと同じ場所にあって、今も辿ることができるように。
  • 以前、呉をみんなで一緒に歩くというイベントを行った際、参加者の方が「なんだか本当に(主人公が)いるみたい感じがだんだんしてきたぞ」ともらしていた。主人公が生きていたら、今年で90歳。きっと元気なことでしょう(笑)。

発言者:丸山さん

  • パイロットフィルムの中で、デコボコの道を車がガタガタ走っていたり、船の横で子供たちがなわとびをしていたりするシーンがあった。私だったらそんな細かいことせず、車ならピューっと走らせちゃいますが(笑)。そういったところにまでこだわって作れることになったのは、クラウドファンディングのおかげ。
  • 数年前、東日本大震災が起きた。私が数年後に入る予定だったお墓も流された。そんなとき、生き残った人たちがまず何をしたかというと「炊き出し」です。悲しい。つらい。それでもやることはご飯を炊いて、食べる。つまりは日々の生活です。
  • 戦争映画というと暗く、そして悲惨な気持ちになることが多いが、こうのさんの原作と片渕さんの絵作りによって、確かに悲しいのだけれども、戦争中の生活がさり気なく・美しく・明るく描かれている。そんな空気が感じられる、『この世界の片隅に』というタイトルは本当に素晴らしい。

発言者:真木さん

  • 今日見て頂いたパイロットフィルムを作るためという名目でクラウドファンディングは行ったが、実際の影響はそれだけではない。6/3に制作発表を行ったが、そもそもこの映画を作れることになったこと自体、支援してもらったおかげである。
  • 今回の支援Mtgはそういった支援者に対する報告の場でもあるが、本当の報告はやはり完成した映画を観て頂くことです。それに向けて頑張っていく。応援よろしくお願いします。

参加した感想
支援者の輪
支援者の輪

今回行われた支援Mtgにて、片渕さんが作品内容に関して話されたもののうち、純粋な意味で初めて公開されることとなった情報はほとんどなかったと思います。それは片渕さん自身が『1300日の記録』やMAPPAのコラムなどで、これまでリサーチされた内容やロケ・イベントの感想を積極的に公開しているためです。
ですが、クラウドファンディングに参加しているからといって、全て支援者がそれらを読んでいるとは限りませんし、既出情報をそこそこ読み込んでいた私のような部類の者に対してですら、今回の支援Mtgは新鮮な驚きを与えてくれるものになっていました。
例えば、「呉軍港における入出港記録を自作した」という文章を読むだけでは分からなかったその作業の大変さや緻密さも、サイズが重過ぎてなかなか開かないExcelファイルを見れば、すぐに理解できたりするわけです。
(ちなみに、片渕さんのプレゼンスタイルは少し独特で、PowerPointでカチッとした説明用資料を作るのではなく、作業用PCの画面を直接スクリーンに映し、説明に必要な資料や写真、ファイルなどをその都度開いていくスタイルです。話す内容も大枠だけ決めておき、細かい部分は当日の口や手の調子に応じて変更しているように感じました)

加えて、片渕さんと共にこの企画を立ち上げ、支え続けているプロデューサーの丸山や真木さん、制作まっただ中の松尾さんといった、関係者でなければ直接お話を伺う機会がないような方々の率直な思いが聞けたことも、支援Mtgをより意味のあるものにしていたと思います。

そして何より、パイロットフィルムの出来とそれを観た後に湧き起こった拍手のときの一体感は、本当に心地よいものでした。

支援者による寄せ書き

たしからしさ
事前に情報を知っていたか否かを問わず、やはり驚きだったのが、この映画を作成するために行われたリサーチの質と量でしょう。そこから得られたおびただしい数のファクトと綿密な構成に基づき、片渕さんらは紙の上に「この世界」を描き出しています。支援Mtgでの講演内容はおおよそ、それらと私たちの暮らす現実世界との結びつきを説明するものであったといえます。

このようなアプローチは素人の私たちでも少しだけ体験することができます。
例えば、今回上映されたパイロットフィルムの終盤シーンで、呉の港で着底した重巡洋艦・青葉が描かれていました。昨今オンラインゲーム『艦隊これくしょん -艦これ-』(DMM.com/KADOKAWA GAMES)のヒットにより若い世代にも馴染みあるものとなった各軍艦の名称ですが、青葉といえば、山本五十六の亡き後に連合艦隊司令長官となった古賀峯一さんや後の総理大臣である中曽根康弘さんが乗船していたことで有名です。
この青葉の最期の様子は、国土地理院による地図・空中写真閲覧サービス(参考 )から確認することができます。

呉で大破着底した重巡洋艦・青葉

呉で大破着底した重巡洋艦・青葉(拡大)
出典:国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス

ちなみに、1枚目で青葉の左下に見えるのは(航空)戦艦・伊勢です。この他にも、この地域の航空写真には大破した軍艦が数多く確認できます。
青葉の着底位置は警固屋地区の海岸ですので、この写真に写った軍艦はほぼ青葉に間違いありません。通常のリサーチであれば、これで十分満足といえる成果でしょう。

しかし、この映画で行われているリサーチはさらに踏み込んでいます。それが本当に青葉なのかということを確認するため現地に赴き、写真を探し、さらに当時の様子を知る人に話を聞いて回る。そこまでして、あのたった1秒かそこらのシーンの「たしからしさ」の純度を高めているのです。
「たしからしさ」を積み重ね、絵の上の「この世界」が時間的にも空間的にも、今私たちが生きる「この世界」と繋がったとき、観客がこの映画から受け取る思いや感情は、決して他人事でも縁遠いものでもない、とても身近なものになっているでしょう。

そして、片渕さんがこの「たしからしさ」にここまで情熱を傾ける理由はきっとそれだけではなく・・・

今年で90歳になる元気なすずおばあちゃんにもこの映画を。
出典:こうの史代・双葉社『この世界の片隅に』

この映画の主人公、名前はすずさん――今年で90歳になる元気なすずおばあちゃんがこの映画を観てくれたときに、「あぁ、懐かしいね」と言ってもらうためなのでしょう。

『この世界の片隅に』生きる人々が主役
この映画で行われている綿密なリサーチはとても驚かされるものですが、私自身が最も感嘆したのは、そうやって積み上げたものを全て背景にしてしまったことです。
それはパイロットフィルムにも如実に表れています。私の記憶に間違いがなければ、最初と最後のタイトルバック以外は、どのシーンにも人が描かれていたように思います。戦争ものであり、かつあそこまで軍艦や兵装について調べていると、ついついそれを全面に出してしまいがちです。じっくりと船体を映し出したり、派手な戦闘シーンだったりで。

ですが、あくまでも主軸は人に置かれます。主人公が絡むシーンはもちろんですが、先述の着底した青葉のシーンも、そのすぐそばで子供たちがなわとびをしています。大和の入港シーンでさえ、鐘楼の信号所甲板から手旗を降っている乗組員を描いているのです。
支援Mtgの中で散々説明してきたものが一切合切、物語の奥に置かれる。代わって全面に押し出されるのは主人公であったり、その時代を生きる人であったりするのです。そこからは、『この世界の片隅に』生きる人の思いを描こうという強い決意をひしひしと感じ取ることができます。

『この世界の片隅に』生きる人の思い

パイロットフィルムが流れる中、あちこちからすすり泣く声が聞こえました。
たった5分、ストーリーはダイジェストであり、声もなく、SEもない。絵とBGMだけのショートフィルムです。
しかしそれでも、心動かされるものがこのフィルムには込められていました。

親と一緒に
親と一緒に観たい映画

映画を観るシチュエーションは人それぞれですが、10代後半以降、自分の親と一緒に映画を観る機会はめっきり減ったように思います。二回りほど年齢が離れてしまうと、共感できるポイントが微妙にズレていることが多いように感じますし、なによりなんか気恥ずかしいですし(笑)
でも、70年前から時間が途切れることなく連なり、描かれていない部分までちゃんと物語が広がっていくこの映画は、自分と世代が異なるからこそ、親と一緒に観たいと思ったのです。観た後に父や母、祖父や祖母の話を聞いてみたいと感じたのです。親と観たくなる映画に出会えるなんて、本当に幸せだ。
そして、支援Mtgを経て、私はこの映画をおすすめする文句を決めた。


「ねぇ。観たい映画があるんだけど、たまには一緒に観に行かない?」



おまけ

講演後、サイン攻めを回避すべく椅子に座ろうとしなかった片渕さん・・・ しかしプロ支援者たちはそれを見逃さない!私はおこぼれにあずかり、サインゲット。

スタッフの方々、関係者の皆さん、制作頑張ってください。応援しています。


ぷりーずふぉろーみー

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. 支援Mtg参加者 2015/08/19 23:42

同じ回の支援Mtgに参加していました。もう一か月以上も前の出来事ですが、お陰様で当日の会場の様子をもう一度追体験できました。感謝!
参加できなかった友人にも、当日の雰囲気が伝わると思います。

. K_shell 2015/08/20 21:26

>>支援Mtg参加者さん
ご一読&コメント頂き、ありがとうございます。
支援Mtgに運良く参加したからこそ感じることができた、あの会場の雰囲気――あくまでも感覚なので言葉にするのが難しいのですが、あえて表現するなら「熱意の重量」みたいなものを少しでも思い出したり、共有したりしたいと思い、このエントリーを書きました。ですので、「追体験」できたとコメントして頂き、とても嬉しかったです。
ご友人にも伝わることを切に願っています。

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