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争いを始めたのは私ではない。
貴様ら、民どもが私に争いを始めさせたのだ。
ぐうたらで、不満ばかりを口にし、自分では手を汚さない・・・。それが民衆というもの。
手のひらで踊っているのはこいつらではない。私と貴様だ。

第2章「思い通りにいかないのが世の中なんて割り切りたくないから」より引用


これは政治と戦争のお話。
海洋貿易で栄えた諸島を舞台にして勃発した民族紛争を受けて、野望の実現のみ考える統治権力、戦争の最前線に送り込まれる兵士、時流にのって都合の良いことばかり主張する民衆が織り成す惨劇のグロテスクさをプレイヤーへ生々しく伝えることに成功した名作です。

国際政治や民族紛争への理解を深めたい人はプレイすることを強くおすすめします!

特に感心したのは次の3点です。
現実問題に立脚したストーリーラインの構築(視点の高いストーリー)
平和の崩壊とその後の政変に直面した人物達の感情表現(視点の低いストーリー)
初心者から上級者までをフォローするゲームシステムの完成度

以降の記述には作品の詳細が含まれます。核心的な部分は極力避けていますが、ネタバレなどを気にされる方はご注意ください。

(本作はスクウェア・エニックスより発売されたPSP用ゲームソフトです)
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① 現実問題に立脚したストーリーラインの構築(視点の高いストーリー)
悲劇の幕開け

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このゲームの舞台となるヴァレリア島は、かつて多くの小国が乱立し、民族間による紛争が絶えませんでした。この混沌とした時代にドルガルアという1人の英雄が登場することにより、紛争は沈静化し、国家はドルガルアを国王とするヴァレリア王国に統一されます。
英雄ドルガルアの功績はこれに留まらず、島内の全ての民族が互いに助け合って平等に暮らしていけるようにしたいと切に願い、民族融和政策を打ち出しました。異民族間の婚姻の積極的な奨励、一切の暴力と争いを否定する宗教を唯一の国教として設定する等、具体的な施策をもって民族融和を推進したのです。そして、多民族からなるヴァレリアの安定統治についに成功します。

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しかし、これはあくまでもドルガルアのカリスマ性をもってかろうじて成り立つ危うい統治でした。後継者不在のままドルガルアが死去したため、覇権を巡って3つの民族(旧貴族階級のバクラム人、多数民族のガルガスタン人、少数民族のウォルスタ人)の対立が先鋭化し、ヴァレリア島は再び泥沼の内乱に突入していきます。
激しい覇権争いが続く中、痺れを切らしたバクラム陣営は、島外の大国であるローディス教国に援軍を打診し、ローディス教国がこれを受諾。ヴァレリア島の内乱に島外の大国が武力をもって介入したことにより、きわどく保たれていた三民族間のパワーバランスは一気に崩壊、バクラム陣営は島の半分を掌中に収め、バクラム・ヴァレリア国の建国に成功します。

一方、島内人口の多数派を占めるガルガスタン陣営も、その混乱に乗じてガルガスタン王国を建国し、バクラム陣営に抵抗を続けるとともに、民族浄化を掲げて少数派であるウォルスタ人に対して弾圧を開始。これにより、ウォルスタ人はその人口を著しく減少し、かろうじて難を逃れたウォルスタ人の生き残りも、せまく隔離された自治区へ強制移住の上、強制労働を強いられることとなり、民族存亡の危機に陥ります。
また、これらの裏で、同一民族間の宗教観対立や島外の国家であるゼノビア王国によるヴァレリア島内乱への密かな介入も進行していく・・・

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そして、ゲーム本編はこの泥沼の内乱の中、ウォルスタ人のとある青年の視点で幕を開けます。


現実で起こってしまった紛争を描写すること

民族紛争が絶えない地域を1人のカリスマが平定し、その英雄の死後、再び戦乱が起こるというストーリーラインは、異常なほど多様性で溢れた祖国を卓越した政治手腕とカリスマ性で1つにまとめあげたチトーと、その死後起きたユーゴスラビア紛争をモデルとしています。昨今、特にビジネスの世界において多様性の重要さが叫ばれていますが、多様性を受け入れることは分裂のリスクを高めることであり、それを抑制するシステムが必要となります。現実のユーゴスラビアとゲーム中のヴァレリアでは、それを英雄による独裁制に求めましたが、いずれも悲劇的な結末を迎えました。
タクティクスオウガでは、この現実で起こってしまった悲劇をテーマに据えています。プレイヤーは、ゲーム内のキャラクターの視点とは別に、高いところから全体を見渡す、いわゆる「神の視点」にたってこの悲劇を俯瞰することになり、多くの民族とコミュニティーが入り乱れた多様性の国がなぜ最悪の内戦に突入したのか、そこで何が行われたのかを追体験していくのです。

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タクティクスオウガの開発責任者・企画・シナリオを担った松野泰己さんは、テーマ設定に関して、以下のように語っています(※1)。

ベルリンの壁の崩壊やユーゴスラビア紛争については、特に思うところがありました。日本人には“民族紛争”といったってピンと来ない部分もあったので、これは逆にちゃんと描いてみる価値があるんじゃないかと思ったんです。

ゲームを盛り上げるスパイスといったレベルを遥かに超えた厳しいテーマ設定が背景にあるからこそ、圧倒的なリアリティを誇るだけではなく、プレイヤーに対して、今日漫然と享受している平和とは何なのかを強く問いかけてくる作品となっています。

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② 平和の崩壊とその後の政変に直面した人物達の感情表現(視点の低いストーリー)
僕にその手を汚せというのか

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現実問題に裏打ちされたストーリー背景に対し、メインストーリーはぐっと視点を下げ、最前線にたたされた主人公や兵士達の深い苦悩を秀逸に描きます。

主人公は最も弾圧と差別を受けている少数民族のウォルスタ人であるため、取り巻く環境が目を覆わんばかりに厳しい。民族浄化の名の下、襲撃や弾圧によって次々と肉親や仲間の命が消え行く中、生き残るためにはとにかく抵抗するしかありません。そんな中、苦しいゲリラ戦や多くの幸運も重なり、捕われていた同胞のリーダーを敵の手中から奪還に成功し、反転攻勢の足がかりとして自治区にいる味方の解放と武装蜂起を画策します。
しかし、味方となるべきウォルスタ人の一般民衆は、長期に渡る紛争と執拗な迫害に疲弊しきっており、これ以上の状況悪化を懸念して武装蜂起を拒否。そして、主人公(とプレイヤー)に突きつけられる選択・・・

「収容されたウォルスタ人を全員虐殺せよ」

ここまで厳しい決断をプレイヤーに求めるゲームがあるでしょうか。
命令を受け入れる
 =主人公自らの手で女子供を含む5,000人の同胞を虐殺。その後この事件を敵陣営の仕業として濡れ衣を着せ、敵への憎しみをエサに味方の武装蜂起へ誘導する。
 =すなわち、大罪を負って救国の英雄となる道。

命令を拒否する
 =自らの手を汚すことはないが、味方の士気が上がらず、民族浄化によるウォルスタ人の全滅リスクや、他の者に命令が移転しその仲間に多大な罪をなすりつけてしまうリスク、自らは命令違反の犯罪者として負われるリスクを負う。
 =すなわち、祖国への反逆という大犯罪を犯してまで信念を貫く道。
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自分が属する民族が生きながらえる選択をすること。一見すると最適な戦略です。

しかし、この戦略が最適なのは何も味方のウォルスタ人に限ったものではなく、敵であるガルガスタン人やバクラム人等も同様です。他の民族に優先して自己の民族の繁栄を図る限り憎しみの連鎖は止まらない。つまり、民族ごとの部分最適戦略が、ヴァレリア島に住む人々にとっての全体最適には必ずしもなりえないことをプレイヤーは見せつけられるのです。
一方、中長期的にみて敵対勢力も含めたヴァレリア島の平和を目指すという全体最適戦略を選択したとしても、短期的には味方を含めた多大な血の犠牲を伴う上、必ずしもその高尚な理想が友や一般民衆に理解されるわけではないことを見せつけられます。

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さらに、戦場における個々の戦闘も、澱のように主人公の心を汚していきます。
夫の仇である主人公を憎み、子を腹に宿していながらも挑んでくる女海賊や、娘の病気を直すため高額の薬が必要となり、高額賞金首となった主人公を狙ってくる魔導士等、それぞれの正義を胸に抱き主人公の前に立ちはだかる敵。自らが選択した理想を叶えるために敵の切なる願いを踏みにじって進む覚悟をプレイヤーは常に問われるのです。

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駆り立てるのは野心と欲望、横たわるのは犬と豚

ストーリーが進むにつれて、主人公の立場は一介の民衆から先導者へと大きく変遷していきます。
この変遷の過程で、無自覚に身勝手な期待を押し付けてくるだけの民衆やその期待を建前として自己保身に走る政治家の心情とも対峙することになり、結果として主人公は苛烈な権力闘争に巻き込まれます。
そして、兵士としての戦争参加に際し、「おまえ自身はどうしたいんだ?」といったような極めて能動的な意思の選択を問われたのに対し、政治的な駒として利用される・民衆から都合良く期待される中での権力闘争は、「おまえはあの期待を裏切るつもりか?」といった形で主人公の行動と思考を受動的に縛っていきます。つまり、弱い立場として命令を受け、それを実行するか拒否するかを問われた状態から、力を持つ立場でありながら、民衆や仲間の期待を裏切って統制がつかなくなる可能性を考慮するが故に、最適な命令を下せない状態に陥っていくこととなるわけです。

この政治的な権力闘争は、武力を用いた戦争と合わせ鏡のような形でメインストーリーを構成し、エンディングを含めた様々な場面において悲劇をもたらすことになります。民衆は自分達のより良い未来を主張しただけだし、政治家はその期待に沿って自分達に望ましい世界を志向したに過ぎない。
しかし、それら個別最適の願いはやはり全体最適に至らない。たとえ戦争という形をとらなくとも、過ぎたる闘争は人を殺すのです。

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視界に飛び込むのは戦闘における敵、味方だけではありません。政治家に代表される支配権力側の人間、一般民衆に至るまで、1人1人の狂おしいまでに生々しい心情がストーリーに食い込んできます。
そして、たとえ同胞を救うためでも、崇高な理念に基づくものでも、民衆が望んでいるもしくはトップの決断だからという言い訳があったとしても、他人の人生を大きく揺るがす選択の結果をプレイヤーはあらゆる場面で痛烈に経験することとなるのです。

③ 初心者から上級者までをフォローするゲームシステムの完成度
SRPG特有の強みと弱み

本作『タクティクスオウガ 運命の輪』はシミュレーションRPGというゲームジャンルです。SRPGと表記されることも多く、ファイアーエムブレム・ファイナルファンタジータクティクス等が同ジャンルとなります。駒1つ1つに職業、体力、攻撃力、防御力、素早さといったステータスが付与されたチェスといったイメージをしてもらえるとわかりやすいかもしれません。

このジャンルのゲームは、往々にして「リセットプレイ」がつきものとなります。戦闘をするにあたり、敵キャラがどのように動くかを事前に予測して味方キャラを配置していく中、どんなに緻密な戦略を練り上げたとしても、敵の攻撃がクリティカルヒットするといったリアルラック要素が結果を決定してしまうことがあるためです。
もちろん、たった1つの間違いで積み上げてきた成果が脆くも崩れさるひりひりした緊張感は、このジャンルのゲームの大きな評価点です。
しかし、実状として、予期せぬ事態が起きると多くのプレイヤーはコントローラーを放り投げてリセットボタンを押し、また最初から・・・といったプレイをすることとなり、プレイ時間の激増や、ときにはプレイ続行を放棄といったことにまで繋がっていきます。つまり、高い戦略性が要求される一方、ギャンブル要素に対して大きすぎるペナルティをもっているといえるのです。


「リセットプレイ」の克服

この問題点を解消するため、これまでの同ジャンルのゲームでは、戦闘途中での中断セーブを用意したり、リセット⇒ロードの時間を短くしたりする等と行った形で対応してきました。しかし、これらの対策では根本的な解決に至らず、プレイ時間が限られていたり、度重なるリセットプレイに精神が耐えきれなかったりするプレイヤーにとっては大きなディスアドバンデージとなっていました。

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本作では、そのタイトルにもある「運命の輪」の1つとして『C.H.A.R.I.O.T.』と言われるシステムが実装されています。その内容は「50手以内の行動ならいつでもやり直し可能」というものであり、究極のリセットプレイ容認システムです。これによって、SRPGがそのゲームの特質ゆえに抱えていた最大の問題点を解決しています。また、ゲームの難易度が『C.H.A.R.I.O.T.』システムの使用を前提としてセッティングされているため、戦闘がダレてしまうことはほぼありません。
なお、このシステムを使用するかはプレイヤーの自由裁量となっているため、これまでのSRPGと同様、一撃死の危険に常にさらされながらプレイすることももちろん可能です(ゲーム中、『C.H.A.R.I.O.T.』の使用回数は自動記憶されていくため、使わずにクリアした場合はそれを証明することも可能)。

『タクティクスオウガ』を通して見る現実
1つ1つが重く、考えさせるシナリオであるにも関わらず、ゲーム初心者から上級者まで楽しめるシステムでプレイヤーをストーリーにしっかりと引き込む『タクティクスオウガ』は、結果として多くの人を魅了しています。
『理由』で直木賞を受賞した宮部みゆきさんやアニメ『氷菓』の原作者である米澤穂信さんも本作のファンであることを公言し、ビジネスとしても27万本以上を売り上げ、大成功をおさめたといえます(※2)。

グローバリゼーションを背景に急速な多様化が進む中、移民労働者の受入問題・他民族に対するヘイトスピーチ・職場における外国人との付き合い等、他者との軋轢問題は様々な場面において誰でも直面する可能性のあるものとなっています。
『タクティクスオウガ』は、いまだに人類が答えを見出せないこの難問に幅広い視点で焦点をあてた傑作といえます(※3)。本編ストーリーの中で明確にはその解決策が示されないものの、ダウンロードコンテンツ(DLC)で無料配信された後日談にて記された一節は、軋轢が生む悲劇を共有した上で、互いを理解し共存することに価値を見出した本作スタッフがたどり着いた1つの答えなのでしょう。

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※1)「タクティクスオウガ 運命の輪」特別鼎談 松野泰己×宮部みゆき×米澤穂信「タクティクスオウガ」がくれたもの 』より引用。この座談会は本作について多くの示唆に富んでいるので、一読をおすすめします(但し、ネタバレ注意)。
※2)『 週刊ファミ通2011年7月7日号週刊ファミ通「復刻流行ジャパン」名作ゲームの復刻「タクティクスオウガ 運命の輪」 』より引用。
※3)個人的には本作の終盤からエンディングにかけての展開は不満が残ります。特に最後の敵を「彼」にして、それを打倒し乗り越えることこそが平和を獲得することだとした部分について、本質的な問題は「彼」という個人ではなく、「彼」という個人のカリスマ性に依存した制度や人々の意識そのものだったはずであったことから、解決策に対する具体的な考察不足の感が否めないと思ったります。しかし、重く考えさせるシナリオの終着点として、ゲーム性を優先し分かりやすい形で最後の敵を設定したことは致し方ないともいえます。いずれにせよ、(仮にこの部分が納得できないとしても)本作がもつ魅力は数多く、名作なのは間違いないです!
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